優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成は謙信の籠手と具足だけを借り受け、そして幸村と兼続と謙信は…城の前に集まる1万5千以上の兵の前に姿を現した。


…城が震えた。

それほどの大きな声。

謙信の鬨の声を待っている。


「突然こんなことになってしまって申し訳なく思ってるよ。でも、今度こそこれが最後だと思おう。あの虎の首だけは私が頂戴するからね、横取りは駄目だよ」


謙信の声が届く位置の兵たちが笑い、そして後ろの者たちへと次々にその言葉が伝えられて、笑いの波がさざめいた。


「我々は妻女山に布陣する。恐らく武田川は対岸の茶臼山に布陣するだろうね。攻め込むよ、勇気のない者は今のうちに家に帰ってもいいよ」


「我らはあなたと運命を共にいたします!


「ほんと?じゃあお言葉に甘えて、君たちの命は私が預かろう。毘沙門天が我々を守ってくれるよ、心配しないで。…出陣」


「おおおぉおお!!」


大地がまた揺れた。


三成は戦を前に湧き上がる高揚感とも恐怖心とも取れる何かを全身で感じながら、謙信の一言一言を聞き逃すまいと耳を傾ける兵たちの一挙手一投足を見逃さなかった。


――純粋に恐ろしい。

謙信が天下を求めたら…必ずや叶ってしまうだろう。


「本当について来るの?桃のことは?」


「俺は武将だ。…謙信公の器量、再び拝見させて頂く」


「ふふ、怖い怖い。じゃあ互いに生きていたら私との戦をまた再開しよう」


そう言って笑い、馬の腹に小さく蹴りを入れ、風のように走り始めた。


それに家臣団が続き、兵たちが続く。


――春日山城に残した桃が気がかりではあったが、戦に連れて行くよりはよっぽど安心だ。


今頃、不安で胸が潰れそうになっているかもしれない。


「不安なのは…俺も同じだ」


信玄とどう渡り合うのか。

それを見て、矜持がずたずたに切り裂かれてしまわないだろうか。


不安だらけだ。


「三成よ、引き返してもよいぞ。むしろ我らはそれを望む。死地、というわけではないが、戻れぬ可能性もある。どうする?」


兼続が馬を寄せてきてそう打診してきたが、三成は即座に首を振って唇を引き締めた。


「俺は必ず戻る。桃の元へと」
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