優しい手①~戦国:石田三成~【完】
景虎と約束を取り付けて安心した桃は、いつものように風呂に入った。


そして女中の手が自分と同じくらいの大きさのような気がして、首を傾げながらも部屋に戻った。


――今日、三成と謙信を案じて朝まで眠らなかったとしても、状況は変わらない。

どんなに駄々をこねて“今すぐ行こう”と景虎をに迫っても、首を縦には振ってくれなかった。


だから…早々に寝ることにした。


謙信の部屋の隣に割り当てられた自室で布団を被り、何とか一人で寝ようと試みるが…


かたっ。


「ひゃっ!」


かさり。


「も、やだ…!」


急いで布団からはい出ると、“御用の時はこれをお使い下さい”と言われて差し出されたベルをめいっぱい振って鳴らした。


「桃姫?!」


すぐ傍に控えていたのか、景虎がすぐに飛んで来て正座して震えている桃の前で膝をつくと、恐る恐る肩に触れる。


…その細さに驚きながら熱いものに触れたかのようにして手を離そうとするとぎゅっと握られた。


どちらかといえば女が苦手な景虎は思いきりパニックになりつつも冷静を装い、咳払いをする。


「ご、御用でないのなら俺は部屋の外で控えて…」


「…居て」


「え、今何と?」


「私と一緒に寝て!」




……目が点になる。


最初は自分の願望が幻聴として聴こえたのかと思ったが…行燈の光に照らされている桃の顔は至極真面目で、切羽詰まってさえいるように見える。


「も、桃姫?今…なんと?」


「一人じゃ眠れないの!だからいつも三成さんや謙信さんと……お願い!襲ったりしないからお願い!」


「お、襲う?!」


そう言いながらもいきなり抱き着かれると力任せに布団の中に引きずり込まれ…ぎゅっと腕に腕を絡めて抱きしめてきた。


…腕に伝わるものすごくやわらかいものの感触。


男には、ないものの感触。


「桃姫…っ」


「今日だけでいいから!…やっぱり誰かと一緒に寝ると安心する…」


…地獄だ。

今晩は…眠れるわけがない。


「さすがは父上。辛抱強い…」


「え?」


襲わずに夜を越せるか心配になった。
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