優しい手①~戦国:石田三成~【完】
信玄が海津城に入ったという報告を受け、上杉軍は海津城を見下ろせる妻女山に陣を張り、山上から武田の大軍を見下ろしていた。
「予想通りだね。ここからなら彼らの動向を読むことはできるし、押さえられていなくてよかったよ」
陣幕の中、相変わらずの軽装で座した謙信の周りに重装備の家臣団が地図を広げながら軍議を開いていた。
「殿、ここは我らが一気に攻めて武田を滅ぼしましょうぞ」
うっすらと笑みを掃いた。
秀麗な美貌には戦うことへの恐怖の色は微塵もなく、安田長秀の諫言に耳を傾けつつも、考えは一切譲らない。
「私は信玄と一騎打ちがしたいんだ。兵を巻き込みたくないし、彼が動くのをここで待つよ」
――三成は、豊臣秀吉の重臣だ。
陣幕には上杉の家紋である、雌雄二羽の雀が対い合っている竹に飛び雀。
決して上杉の者になったのではなく、この陣の中に入ることは、三成の矜持が許さなかった。
故に海津城を見下ろせる崖から一歩も動かず、また軍議に参加していなければならない幸村も、三成の隣に立っていた。
「三成殿…拙者は…どうすればいいのかわかりませぬ」
「…身が切られる思いだろう?同情するぞ」
「…いえ…お館様は…笑顔で拙者を送り出してくれました。“上杉は必ず力になってくれる”と。あのお二方は固い友情で結ばれているようです」
不謹慎だったが…2人の想いはこの時共通していた。
“桃に会いたい。”
あの無邪気な笑顔で癒してほしい。
朱色の甲冑ががちゃりと重たい音を立て、幸村が掌を見つめる。
「武田は皆拙者の元仲間です。この手で切り結ぶことは難しい」
「だから私の隣に居ればいいって言ったでしょ?」
「!殿…」
陣幕から謙信が出て来て、少し長い前髪をかき上げて茜色の空を見上げた。
「桃に会いたいね。たった2日しか経っていないのに1年会っていないほど長く感じる。戦はこれだから嫌いだよ、愛しい者に会いたくなるから」
「…俺は必ず生きて帰る。ここには武田と上杉の世紀の対決を見に来ただけだ」
興味がある、とは素直に言えずに謙信を睨むと…かがり火を盛大に炊く海津城にまた視線を落とした。
「予想通りだね。ここからなら彼らの動向を読むことはできるし、押さえられていなくてよかったよ」
陣幕の中、相変わらずの軽装で座した謙信の周りに重装備の家臣団が地図を広げながら軍議を開いていた。
「殿、ここは我らが一気に攻めて武田を滅ぼしましょうぞ」
うっすらと笑みを掃いた。
秀麗な美貌には戦うことへの恐怖の色は微塵もなく、安田長秀の諫言に耳を傾けつつも、考えは一切譲らない。
「私は信玄と一騎打ちがしたいんだ。兵を巻き込みたくないし、彼が動くのをここで待つよ」
――三成は、豊臣秀吉の重臣だ。
陣幕には上杉の家紋である、雌雄二羽の雀が対い合っている竹に飛び雀。
決して上杉の者になったのではなく、この陣の中に入ることは、三成の矜持が許さなかった。
故に海津城を見下ろせる崖から一歩も動かず、また軍議に参加していなければならない幸村も、三成の隣に立っていた。
「三成殿…拙者は…どうすればいいのかわかりませぬ」
「…身が切られる思いだろう?同情するぞ」
「…いえ…お館様は…笑顔で拙者を送り出してくれました。“上杉は必ず力になってくれる”と。あのお二方は固い友情で結ばれているようです」
不謹慎だったが…2人の想いはこの時共通していた。
“桃に会いたい。”
あの無邪気な笑顔で癒してほしい。
朱色の甲冑ががちゃりと重たい音を立て、幸村が掌を見つめる。
「武田は皆拙者の元仲間です。この手で切り結ぶことは難しい」
「だから私の隣に居ればいいって言ったでしょ?」
「!殿…」
陣幕から謙信が出て来て、少し長い前髪をかき上げて茜色の空を見上げた。
「桃に会いたいね。たった2日しか経っていないのに1年会っていないほど長く感じる。戦はこれだから嫌いだよ、愛しい者に会いたくなるから」
「…俺は必ず生きて帰る。ここには武田と上杉の世紀の対決を見に来ただけだ」
興味がある、とは素直に言えずに謙信を睨むと…かがり火を盛大に炊く海津城にまた視線を落とした。