優しい手①~戦国:石田三成~【完】
セーラー服に着替え、周囲を驚かせた桃は甲冑に身を包んだ景虎に手を引かれ、中庭に連れて行ってもらうと、口笛を吹いた。


「クロちゃーん!」


景虎の命で今まさに桃の前に連れて来られようとしていたクロはその声を聴き、急に走り出して使用人を引きずりながら桃の前で急ブレーキをかける。


「景虎様!あなた様は春日山城を守るようにと…!」


「この越後を攻めてくる者など居ない!何かあれば同じく留守番役の上田殿を頼れ!俺は桃姫を父上の元までお連れする。これは桃姫…ご正室の本意だ!」


――敢えて桃はそこで反論しなかった。

反論してしまえば引き留められかねない。


なので首を下げたクロに、言い聞かせた。


…道中ずっと謙信がしていたように。


「クロちゃん、私はまだ目が見えないけど、謙信さんと三成さんの所に連れて行ってほしいの。クロちゃんを信じてるからね」


大きく嘶いたクロが尻尾を高く上げて走り出した。

まだ方角をも指していないのに、クロはまっすぐ川中島へと向かっている。


「では発つ。城を頼んだぞ!」


「はっ!」


慌てて景虎が桃の跡を追う姿を、お園も見ていた。


…女子が戦場へ。

有り得ないことだ。

言い換えれば、そこまでして会いたいということなのだろう。


…どちらと?


「クロちゃん、倒れない程度のスピードでいいよ、川中島って遠いんでしょ?」


「遠いですが、二晩走れば着きます。それにしても…」


景虎はこの時はじめて桃がセーラー服を着ている姿を目にした。

前のめりになって腰を浮かせている桃のお尻は丸見えで、

ちらちらと視界に入る下着姿が景虎の煩悩を刺激し、猛烈な速さで走るクロに何とか並ぶと、焦る桃を落ち着かせるように言って聞かせる。


「武田は策士です。あなたの存在が知れてはそれこそ手ごまにされかねません。どうか慎重なる行動をお願いいたします」


「うん、わかってます!景虎さん、無茶言ってごめんなさい、私…離れていたくないの!」


…どちらと?


――そう聞きたかったが、飲み込んだ。


「きっと父上はお喜びになられるでしょう。少々叱られるかもしれませんが、ご覚悟ください」


「うん、覚悟します!」


――それくらい、何でもない。


ただ、会いたい――
< 316 / 671 >

この作品をシェア

pagetop