優しい手①~戦国:石田三成~【完】
動いたのは、武田側だった。


本隊は川中島へと移動し、そして秘密裏に妻女山への背後を別働隊が急襲し、上杉軍は信玄お得意の啄木鳥戦法を受け、危うきに見えた。


だが謙信はこの信玄側の動きを読んでいた。

すでに山を下り、脇を兼続と幸村に固められた謙信は三角州になっている川を馬で渡ると、信玄の本隊とかち合った。


大軍だ。しかし長秀や色部などが兼続から授けられた作戦で形勢は上杉側が有利だった。


「…いやな予感がするよ」


「殿、如何なされましたか?」


――まだ気になっている。


武田の本隊とにらみ合いつつも、胸の中でざわめくこの熱いもの――


「殿、信玄が」


遥か前方には…


領地を巡り、長きに渡って戦い続けた武田信玄の雄々しい姿が在った。


「…行こう。三成、君が命を落としたら桃は私の正室にする。そのつもりで」


またあの謙信が作り出す不思議な空間に巻き込まれてしまったことを知った三成は刀を抜きながら頷いた。


「その言葉、そのまま返す。俺は貴公の傍で貴公の戦い方を見るだけだ。手助けはせぬぞ」


「兼続、号令を出すよ」


「はっ、畏まりまして!」


瞳を閉じて息を吸い…


「標的は武田信玄!上杉謙信が虎の首、貰い受ける!」


「おおおおぉーーーー!!」


一斉に大軍がぶつかった。


謙信はまっすぐに突き進み、迷いを捨てた幸村が謙信より前に出て敵を次々と屠ってゆく。
その凄まじさは“武田に真田幸村あり”と言われたほどで、目の当たりにした三成は舌を巻いた。


また謙信も敵と斬り結んで行き、本当に返り血一滴も浴びないその戦い様に悪寒が走り、三成も向かってくる兵にのみ刃を向けて突き進み、


そして信玄のシンボルとも言える総髪兜が見えた。


突き進もうとしたその時――


「なんだあれは」


「…女子か!?」


皆の動きが止まり、一様に同じ方角を見ている。


「まさか…」


謙信が呟いた。


三成はその時――

起こりうるはずがない光景を見た。


セーラー服を着て目を布で覆った桃がこちらに向かって突き進んでいた。
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