優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成は、我が目を疑った。

謙信は、“やはり”と思った。


――城の留守を任せた景虎と共に駆けてくるのは…間違いなく、桃だ。


「どうして…ここに?」


馬群が割れ、ゆっくりと信玄が馬を進めてくる。

謙信はその場から離れることができず、信玄から目を逸らさずに幸村に命を出した。


「幸村、頼んだよ」


「はっ!」


――謙信と信玄の道は作った。

両軍共に全機能を止めて、皆が桃と謙信たちの対決を食い入るように見つめていた。


「俺も行く!」


三成も幸村の後を追いかけて桃を守るために駆けて行く。


「上杉の、久しぶりだなあ。相変わらず生白いことだ」


「…君は痩せたね。その身体で刀を抜けるのかな?」


2人共馬を進め、間合いを残して立ち止まった。


…頬は痩せこけ、目の下にはくまができている。

時折苦しそうに咳き込み、もはや命運は尽きていたと言えたが…謙信はふっと微笑んだ。


「おぬし如きに敗ける儂ではないぞ。天に上らせず儂が地上で這いつくばらせてやる。……ところで、あの女子は何だ?」


――幸村の首を獲れば昇格どころではなく、謙信たちとは反対方向に向かっている幸村の首を獲ろうと兵たちが群がり、

また三成も重臣の風格があるため、同じく兵たちに囲まれ、


そして戦場に女子…


「あの女子は私の大切な人だよ。ここまで追いかけてきちゃって…よっぽど私のことが好きなんだなあ」


「その上っ面で騙したんだろう?どうだ、そなたが死する後、儂が引き受けてやってもいい。とくと可愛がってやろう」


すっと謙信の瞳が細くなったのを見た信玄は、髭を震わせて豪快に爆笑した。


「がはははは!一向に女子に興味のなかったおぬしがとうとう惑わされたか!これは儂も興味津々じゃ。ここまで連れて来い」


そう言って刀を収め、遥か先の桃に視線を遣った信玄に倣い、謙信も近付いて来る桃を待つ。


――桃はただクロを信じて真っ直ぐ走っていた。

騒乱の中に居ることはわかっていた。兵たちの雄々しい叫び声が取り巻き、泣きそうになりながらもクロにしがみついていた。


「桃!!」


その叫び声――届いた。
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