優しい手①~戦国:石田三成~【完】
幼き頃から目をかけてくれた秀吉を裏切れるのか?


…怒涛の連合軍を組んで越後へ押し寄せてくれば、いくら戦の天才の謙信であっても…数に圧倒されるかもしれない。


もしそうなった時…城内の女たちが悲惨な目に遭ってしまう――


死んだ方がましだ、と思うほどの屈辱を味わい、散々弄ばれた後、殺される…


それは避けては通れない。


――和議を結ぶために尾張へ戻って秀吉を説得するか?

いや、信長の命に逆らえるはずがない。

信長の力のおかげで秀吉は今の地位を得たのだ。

秀吉の戦上手の才が発揮できたのは、信長の元に居てそれを学んだからこそ。


…ようやく目が見えるようになったというのに…そして両親が信長に捕らわれていることもわかり、さらに先程謙信が桃の心を大きく揺さぶった。


…選んでもらえないかもしれない。


だが…謙信なら、桃を安心して任せられる。


――気が付けば夕暮れ時で、迷いを解き放つために風呂へ向かい、頭から水を被った。


何度も何度もそれを繰り返して頭の中をクリアにして、身も心も引き締めて部屋に戻ると…


「…三成さん…」


「…桃?何故ここに…」


真っ白な浴衣を着て正座をした桃が、見上げてきた。


心臓が大きく跳ね上がり、期待をしてしまう自身の雑念をまた頭の隅に追いやりながら隣に座り、濡れた黒髪をかき上げながら俯いた桃の顔を覗き込む。


「どうした?」


「…尾張に帰っちゃうの?」


…ずきんと心が痛んで、声を震わせた桃の肩を抱くと引き寄せて胸に埋め込めるようにして抱きしめる。


「…俺はそなたを守ると決めた。だから…」


桃の顎を取ると上向かせて瞳を合わせた。


「そなたが俺を選ぶのなら、俺はここに残る」


「三成さん…」


唇を奪ってそのまま押し倒してしまいたかったが、欲を禁じてただ見つめ合っていると…


桃の方から身体を起こして、唇を重ねてきた。


今までにないくらい積極的に舌を絡めてきて、理性が吹っ飛びそうになる。



「桃…っ」


「私…今日…この部屋に泊まるから…いいよね?三成さん…」



選択する――
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