優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「軒猿からの情報ですが、すでに織田、豊臣の連合軍と別軍で動いている徳川軍が進軍しているとの情報有り。飛騨に向けて集結しているとのことでございます」


「北条は動いてないんだね。逆にちょっと不気味だなあ。それに大軍だ」


「恐らく戦いの場は関ヶ原となりましょう。…いつぞやか桃姫が関ヶ原のことをお話してくださいましたが…殿…」


兼続がやや不安そうな声を上げて、沈痛な表情を見せる家臣団を見回し、だが逆に謙信は笑い声を上げた。


「こら、まだ戦も始まっていないのにその顔はやめなさい。私は勝機はあると思うんだよね」


何を根拠に、と言いかけた時――大広間の襖の向こう側から雄々しく若々しい声が響いた。


「真田幸村、戻りました!」


「ああ、帰って来たね。入っておいで」


――勢いよく襖が開き、両の拳を突いて頭を下げた若武者の姿を見て家臣団が醸し出していた沈痛な空気が吹っ飛ぶ。


「おお、よく戻って来たな。武田は落ち着いたのか?」


長秀が声をかけると幸村は快活な笑顔を浮かべ、歯切れのよい返事をしながら懐から文を取り出した。


「殿、こちらを」


「ん。これは…武田と伊達の血判状?こんなもの、どうしたの?」


兼続が横から文を覗き込んでいる間に幸村は謙信の上座の前まできてあぐらをかいて背筋を伸ばし、拳で胸を叩いた。


「織田の連合軍に対し、我が上杉軍と共闘する証として血判状を受け取って来ました。規模としては織田に匹敵いたします」


おお、と雄々しい雄たけびが大広間に響き渡る。

一瞬にして鼓舞された家臣団は頼もしい味方をつけたことで息を吹き返し、次々と謙信に声をかけた。


「これを機に天下を目指しましょうぞ!」


「殿、勝機が見えてきましたな!」


――そしてそわそわしている幸村の肩を叩き、労をねぎらいながら彼が行きたがっている場所へと促す。


「さ、待ちかねた顔を見ておいで。手を握る位なら許してあげるよ」


「い、いえっ、そ、そのような…!」


そう言いながらも早々に立ち上がり、顔を絡めながら部屋から出て行く。


「桃…君の憂いを全て晴らしてあげる」


だからここに留まって――
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