優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その頃桃は毘沙門堂の毘沙門天像の前に座っていた。


「どうしよう…みんなに知られちゃった…」


尾張に戻るかもしれない三成を引き留めるために自ら選んだ決断。

兼続や景勝…景虎に“裏切り者”と罵られるかもしれない。

それが怖いし、恥ずかしいし、不安だ。


「どうしよう…」


「桃」


お堂の入り口から三成の声が聴こえてはっとなると、慌てて立ち上がって外へと出る。


そこには不満そうな顔をした三成が立っていた。


「三成さん…」


「…先程は何故逃げた?知られるのがいやだったのか?」


「…だって…恥ずかしいじゃん…」


むき出しの岩にもたれかかって俯くと、さらに不満げな顔になって強引に手を掴んできた。


「…後悔しているのか?俺とこうなったことを?…謙信がいいのか?」


「ち、ちが…っ」


「そなたには後悔してほしくないし、俺だけを見てほしい」


謙信とは違う愛情の示し方。

不器用だが時に真っ直ぐ感情をぶつけてきて、ふわふわとさせる。


「うん…わかった。不安にさせてごめんね?」


「う、うむ。今から謙信が血判状に押印する。そなたにも見守っていてほしいはずだ。行こう」


「うん」


優しい手で引っ張ってくれて、大広間まで連れて行かれると…

中には謙信の重臣を中心とした家臣団が居て、そして政宗、小十郎…もう一人見慣れない若者が座っていた。


「おお来たか。桃、こ奴は成実という。俺の幼馴染だ」


「こちらが殿がご執心の姫君で?某は伊達成実と申す。以後お見知りおきを」


背中半ばまで届く黒髪を束ね、きりりとした端正な表情をした政宗に良く似た成実に笑いかけていると、謙信が声をかけてきた。


「桃、こちらにおいで。傍で見ていてほしいんだ」


…直垂という真っ白な着物を着て正装をしていた。

ものすごく綺麗で、一気に鼓動が速くなる胸を押さえながらすぐ近くに座ると、にこ、と微笑まれ、俯く。


「さて…やろうか」


自らの血で署名された血判状。


小刀で人差し指の先端を傷つけると、その血で名を刻み込む。


謙信が遂に、起った。
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