優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃が三成を探し求めて廊下をさ迷っているとそんな桃に声をかけてくる者が在った。


「桃姫様…」


「あ…、お、お園さん…」


――かつて三成が愛した女。


まだまともに会話を交わしたことがなく、その場に立ち止まってまごついていると、お園は小さく笑って、庭園の右隅を指さした。


「三成様はあちらの方向へ歩いて行かれましたよ」


…桃がもう三成と夜を共にしたことは女中たちの間ではもう知れ渡っていて、もちろんお園の耳にも入っていて心中複雑だったが…


あの堅物の男が早々簡単に女に手を出すはずがない。

…自分の時もそうだったのだから。


「ではこれで」


――お園が立ち去ると、桃は草履を履いて広すぎる庭園に降りて三成を捜した。


5分程さ迷った挙句、ようやく三成を発見した場所は小さな池の前で、三成は鯉に餌をやっていた。


「捜したよ?」


「…1人になりたかったんだ」


「…さっきの政宗さんがくれた石のせい?」


「そうだ。そなたが元の時代に帰るかもしれないことが…俺には耐えられぬ」


固い表情のままこちらを振り向くこともなく、怜悧な横顔は少し悲しげで、桃の脚も止まってしまう。


「まだどうなるかわかんないし…。お父さんとお母さんを助けることがまず先決でしょ?私は…三成さんと謙信さんの方がよっぽど心配だよ…」


足元の砂利を蹴って掘りながら本音を漏らすとようやく三成が近寄ってきて、手を握ってきた。


「武田軍が着けばすぐにでも発たなければならぬ。桃、だから今宵は…」


そう言いかけた時――銅鑼が鳴った。

何者かが入城した合図で、桃の手を引くと足早に城内に戻ろうとして…そして正門で、幸村と何者かが固い握手を交わしているのが見えた。


「あれは…武田の高坂か」


――武田軍が着いた。


皆一様に武装しており、いつでも出立できるような格好で、桃を緊張させる。


「あ、三成殿、桃姫!」


挨拶を終えて幸村が駆け寄って来ると、戦馬鹿は戦を前に興奮して高揚していた。


「明日、飛騨に向けて出立いたします!」


…始まってしまう。


天下分け目の関ヶ原の戦いが――
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