優しい手①~戦国:石田三成~【完】
――時は前後して…


眠った桃の頬を撫で、床を出た三成はそのまま謙信の部屋を訪れて、相対した。

早朝だったがもう起きていた。

…いや、眠らなかったのかもしれない。


「おや、ぎりぎりまで一緒に居なくていいの?」


本当ははらわたが煮えくり返りそうな思いのはずなのに謙信は冷静にそう言って、篭手などの武具を装着しながらちらりと三成を視線で撫でる。


「…桃と会ってやってくれ」


「どうして?桃は君のものなのに…私にそんなことを言っていいの?」


「見たくない、というのであればそれでいい」


ばち、と火花を散らし、三成は謙信の部屋を出る直前、振り返らずに小さな声で言った。


「…俺は風呂に入ってくる。しばらく部屋には戻らない」


――三成が出て行き、兼続も席を外した。


瞳を閉じて突っ立ったままだった謙信は意を決して三成の部屋へと向かい、脚を踏み入れた。


そこには浴衣を着せられて、昨晩と何ら変わらない桃が眠っていた。


「桃…」


音を立てないように気をつけながら傍らに座り、少し汗で濡れている髪を払って顔を眺める。


…長い睫が瞳を隠し、最後に挨拶を交わしたかったが…やめておいた。


「行って来るよ、私の姫…」


神聖なものでも触れるような手つきで頬を撫で、白い頬に口づけをして離れると唇をかみ締めて部屋を出た。


「幸村」


一緒について来ていた幸村に声をかけるとすぐさま膝をついて見上げてきた闘神に命を下す。


「終始三成の傍に。彼は戦列を離れ、豊臣軍へと合流する。君は彼を守るんだ」


「しかし…拙者は殿のお傍に…」


「私は大丈夫。夜叉姫と毘沙門天が共に戦ってくれるから。もし万が一何かあれば…桃が悲しむから。君もそれはわかっているでしょ?頼んだからね」


機敏な動作で、苛烈なほどの清廉潔白さでもって、義でもって…


大広間に向かい、準備万端の連合軍の家臣団と相対した。


「さあ、行こう」


――部屋に戻った三成も、一瞬だけ桃の頬に触れた。

意図せず、謙信が口づけした反対側の頬に口づけをすると、部屋を出た。


「桃…」


皆の声が重なる。
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