優しい手①~戦国:石田三成~【完】
春日山城を発って二日。

とうとう関ヶ原目前まで来た上杉謙信率いる連合軍は、右翼、左翼、中央に分かれて徳川軍を警戒しながら進んでいた。


そんな中謙信立っての希望で、謙信の隣には、クロに騎乗した三成が。

その周りを兼続や幸村、景虎、長秀などの重臣が取り囲み、隙を見せずに進軍している。


「ああ、もう私の姫に会いたくなっちゃった」


「…」


「今頃心配してくれてるかなあ、私を想って泣いちゃったりしちゃったりして」


「……」


「帰ったらどうやって可愛がってあげようかなあ。気が散って集中できないんだけど」


「………貴公は勘違いしている。桃は俺のものだ」


――白い僧服を着てフードに近い頭巾をかぶり、はたから見ると本当に毘沙門天の化身かと思うほどに凛々しいが…実際は煩悩の塊だ。


今も仏頂面で苦言した三成の鐙(あぶみ)にわざと脚をぶつけてきて反論してくる。


「まだまだ揺れているみたいだし君が思ってるほど想われてないのかもよ?」


「…貴公と話していると疲れる」


「ふふ、まあそう気負わずに。幸村、軒猿から報告はあった?」


――幸村は六文銭の印の入った緋色の甲冑を着て、油断なく辺りを見回りながら謙信に馬を寄せる。


「…豊臣軍が近いようです。拙者はこのまま三成殿と戦線を離れます。どうか御武運を」


「桃に泣かれて一番つらいのは私だからね。そこをよく考えて行動しないといけないよ」


謙信に諭され、相変わらず固い表情で小さく頷いた三成に笑いかけると、一人緊張していないかのように馬上で大きく伸びをした。


「織田信長かあ。はじめて見ることになるけど、どうせ会うのはその1回だけ。手負いの者を手にかけるのは心が痛むけど…や、痛まないな。うん、痛まない痛まない」


信玄に比べれば恐るるに足らず。


「殿、作戦通り鶴翼の陣でいきましょう。織田の連合軍を取り囲み、一斉攻撃。三成はその前に秀吉公と話をつけ、戻って来るように。いいな?」


旧友に念を押されて、ようやく口を開いた。


「謙信公…頼みがある」


「なんだい?」


「これを」


懐から出したのは…桃に宛てた一通の文だった。
< 386 / 671 >

この作品をシェア

pagetop