優しい手①~戦国:石田三成~【完】
上杉の連合軍は関ヶ原の合戦に布陣し、そこを豪雨が襲って、止んだと思ったら濃霧で視界が塞がれ、両軍にらみ合いをしていた。


「行って来る。霧が出ている今が好機だ」


「気を付けて。豊臣軍はあの山をひとつ越えた所で陣を張っているそうだよ。必ず秀吉公に会っておいで」


無言で頷き、珍しく無表情の謙信が伸ばした手を見つめ…固い握手を交わした。


「私が欠けても君が欠けても、桃は悲しむ。君との勝負はこの戦の後に持ち越すとしよう」


「俺が勝つに決まっている」


減らず口をお互い叩き合い、そして謙信は幸村の肩を叩き、低く囁いた。


「頼んだよ」


「はっ」


頼もしく歯切れの良い幸村に笑いかけ、2人は上杉の本陣を出た。


「獣道を進みましょう。この濃霧が晴れないうちに豊臣軍に…」


「ああ。もし秀吉様率いる軍と出会っても俺の顔が分かる者が居れば問題ない。…急ぐぞ」


三成も幸村も、甲冑を脱いだ。

そうでなければ山をひとつ短時間で越えられるわけもなく、また武装を解除することで戦闘する意思がないことを伝えることもできる。


「桃姫は心配なさっているでしょう。一刻も早く上杉の本陣へ戻りましょう、拙者が向かってくる敵を斬ります。三成殿は前へ進んでください」


「わかった。…苦労をかける」


――幸村は、脚を速めて急な勾配を上る三成の横顔を盗み見た。


…桃と夜伽を共にした三成。


最初から勝ち目がないことはわかってはいたが…三成の手を選んだということは、いずれ春日山城から去って尾張へ戻るということなのだろう。


…その時は、桃に伝えよう。


“いつまでもお慕いしています”と――


「ふふ」


「?何がおかしい?」


「拙者は…女子を好いたのは桃姫がはじめてでした」


「そんなことは最初から知っている」


「ですから、越後へ戻ったらその想いをお伝えします。その許可を」


実直で素直な想いを口にして許可を求めて来る幸村に、笑みが零れる。


「伝えればいい。照れるだろうが、桃も喜ぶだろう」


――霧が立ち込める。

煙の臭いがした。

本陣は、近い。
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