優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その頃春日山城では景勝がほとほと困り果てていた。


何故ならば…義理の父が…謙信たちが春日山城を発ってから毎日、桃と寝食を共にしているからだ。


“食”の部分はまだいいとしても、“寝”の部分は…いかんせん鉄壁の理性の持ち主であっても、心許ない。


「…」


「……謙信さ…」


寝言で父の名を呟きながらうっすらと目じりに涙を溜める桃。


「みつ、なりさ……」


「……」


寝言で、父を選ばずに三成と契った桃。

その話を聞いた時は…身が切られるようにあちこちが痛くなったが、今は父から託されたこの姫君を守らなければ――


「…桃姫」


「……むにゃ…」


“お化けが出るから一緒に寝て欲しい”と言われ、断固固辞すると今度は泣き着かれ…

こんなに女子に苦戦するくらいなら戦に出た方がましだと思いつつ、それは景虎に止められていた。


“父上の跡を継ぐのは景勝、そなただ”


そう言い残し、父と共に関が原へ向かった景虎。


実家となる北条は今回高みの見物で、それでも景虎の功績は大きい。


「桃姫…朝です」


「……あ…景勝さん…おはよう、ございます…」


寝ぼけ眼で挨拶をされたが…


身動きひとつ取れなかった景勝はようやく身体に回った桃の腕を引き剥がして床から這い出た。


「本日は母上が…仙桃院様が桃姫のお話し相手になって下さいます」


「あ、景勝さんのお母さんだよね」


「怒らせると鬼神よりも恐ろしいお方です。父上も全く頭が上がらない程に」


――普段ほとんど喋らない景勝がこうやって頑張って喋ってくれることに感謝して、緩んだ帯を結び直すと早速桃は毘沙門堂に向かった。


「謙信さんが仙桃院さんに怒られるとことか見てみたいなー」


「関が原からご帰還なされたらたっぷりと見れましょう。此度の出陣は母上に相談することなくお一人で決められたこと。母上は拗ねておられますから」


「ふふっ、そうなの?謙信さんったら…」


――優しい笑顔の謙信。

普段はきつい顔をしているが、本当は優しい三成の笑顔。


無事に戻って来てほしい。

そう願いながら、蝋燭に炎を灯した。
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