優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「殿、一大事にございます!」


大垣城を本陣として、上座で静かに瞑想していた謙信の元に兼続が脚をもつれさせながら転がり込んできた。


…その利発な顔には戸惑いの色が浮かんでいて、座禅を解くと背筋を正して座り直し、呼び寄せる。


「どうしたの、皆が見ているんだから落ち着きなさい」


「はっ、申し訳ありませぬ!殿…それで…あの…」


このようにあまり動揺することのない兼続の後ろから年配の大きな笑い声が上座を揺るがした。


「よいよい!はっははは、謙信公、ようやくお会いできたのう!」


「あなたは…豊臣秀吉公…」


――三成が会いに行ったはずの主君豊臣秀吉が今目の前に…


ゆっくり立ち上がると、背が低く、顎髭を蓄え、武装を解いている好々爺の前に立ち、笑み返した。


「お会いしたかったんじゃが越後は遠くてのう。軍神にようやく会えて嬉しく思うぞ」


――信長の子飼いから出世し、信長の死後は天下をその手にする予定の豊臣秀吉…


よくここまでたどり着けたものだとさすがの謙信も感心していると、秀吉はその場に胡坐をかいて謙信を促した。


「話は長くなる」


「兼続、人払いを。秀吉公、よく入城できましたね」


「いやいや、儂は三成を捜しに来たまでのこと。信長様の命でここへ来たのではない。三成の名を出したらすぐに入れてくれたぞ。…身分は明かさなかったがな」


茶目っ気たっぷりでからからと笑い、自らの刀を傍らで緊張しながら座っている兼続に手渡した。


「ここに三成が居るだろう?あれは儂の息子のようなもの。人質に取っておられるのなら返していただきたい。どんな取引にも応じよう」


「人質になど取ってはいませんよ。それに…三成はあなたに会いに幸村と共に山を越えて秀吉軍の本陣に行ってしまって…行き違いましたね」


…想定外だ。

秀吉が三成のことを我が子のように愛していることは知っていたが、まさか乗り込んでくるとは――


「そうなのか!これはしくじった!」


本当に悔しがって畳を拳で叩く秀吉は、三成が越後に出向く理由となった桃の名を出す。


「桃姫が貴公の正室になると聞いたが…誠か?」


緊張がみなぎる。
< 390 / 671 >

この作品をシェア

pagetop