優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃は秀吉の心をも掴んでいる――


それを知り、謙信の柔和な美貌に微笑が浮かぶと秀吉は謙信の顔を覗き込んでやや頬を赤らめた。


「…私は桃を正室にしたいのですが、今は三成と休戦中です。この大戦が終われば、桃を巡ってまた争います」


「ほう…貴公のような美男子に惚れられるとはさすが桃姫!じゃが儂の三成もなかなかの美男子ぞ。いやいや、越後の龍と争うとは…これは参った参った!」


心底嬉しそうに笑っては、だが急にその笑みが…引いた。


「謙信公…儂は信長様側の者。いわば我らは敵同士。三成がここに居らぬ以上、あ奴も桃姫も返してもらう」


「ええ、私も全力で戦います。ですが秀吉公、あなたが本陣に戻られて三成から話を聞いた後に考えが変わるかもしれません。私は極力戦いたくはない。よく考えて下さい」


――武田信玄を敗った男。

織田連合軍の中にも、“謙信と戦いたくない”という者が多く居るのと同時に、“ぜひ刃を交えたい”と息巻く者もいる。


この男は求心力がありすぎる。恐らくこの時代で最もカリスマのある男だろう。


「では儂は失礼する」


「ご足労をおかけしました。信長公と…桃の親御によろしく」


背を向けて去ろうとした秀吉の脚が…止まった。


「…桃の親御とは?越後に居るのではないのか?!」


「桃の親御は信長公に捕えられています。私は彼女の憂いを払ってやりたい。…知らなかったのですか?」


瞬きを忘れたかのようにして謙信を見つめ、その瞳にはみるみる疑惑の色が沸き上がり、それを打ち消すように何度も秀吉は首を振った。


「そんな馬鹿な…儂は何も知らなかった…」


「徳川家康が降伏を説得しにやって来ました。信長公の狙いは桃。秀吉公、あなたはお一人で決断できる方だ。私はあなたの決断を信じている」


「…謙信公…」


足元が揺らいだ。

いきなり“出陣せよ”と言われ、言われるがままに関が原へとやって来たが…


信長の目的は、あの愛らしい桃姫。

三成を変えた、可憐な姫。


「…失礼する。三成は返してもらうがいいか?」


「彼に任せます。ですが桃姫は渡しませんよ」


微笑んだ謙信に、こわばった笑みを返した。
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