優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「くそっ、無駄足じゃった!」


「三成が本陣に向かっているとか。…清正や福島正則に会わなければよいですが…」


三成と同じく軍事の参謀である黒田官兵衛の物静かで理知的な顔に、不安の色が陰る。


「あ奴らは三成に敵意むき出しじゃからのう。此度の謙信公との面会においてもやたら食ってかかってきおってからに」


――城を出るまでの間は上杉の連合軍に取り囲まれて緊張していたが、そんな秀吉に最後に声をかけてくる者が在った。


「豊臣秀吉公よ、俺が織田信長の首を獲るぞ。この顔をよく覚えておけ」


「その眼帯…伊達政宗公か」


兜の前立ては三日月――


勇猛果敢で知られ、恐れ知らずの政宗が腕を組み、騎乗しようと手綱に手をかけた秀吉と官兵衛を馬上から見下ろしてきた。


「これは伊達の…。上杉の連合軍は侮れぬのう」


好々爺を演じてやんわりと笑った秀吉に対して、政宗は血気盛んに瞳をぎらつかせながら官兵衛と秀吉に宣戦布告をした。


「ちなみに桃は謙信でも三成でもなく、俺の正室になる。尾張には三成だけ連れ帰れ」


「はっははは!桃姫はほんにすごいのう!政宗公の心をも奪っておるのか!これはほんに…戦いたくないのう…」


ぼそ、と呟き、牽制する官兵衛を促して騎乗すると、濃霧の中消えて行った。


…様子がおかしい。


その脚で上座のある部屋に向かうと、謙信は肘付に頬杖を突いて何かぼんやりとしていた。


「おい、その緩んだ表情を引き締めろ。秀吉と何を話した?」


「うん、桃と三成を取り戻しに来たんだって。完全に入れ違いになっちゃったねえ…。今どうしようかと思って考えてたとこだけど…秀吉公は、軍を撤退するかもしれないね」


「なに?織田連合軍の一番隊だぞ?何故退く必要がある?」


馴れ馴れしく上座に上り込んで隣に座り、兜を脱いで茶を啜る政宗の手から湯呑を奪って一口飲むと、三成を案じた。


「秀吉公は桃の親御が信長に捕らわれていることを知らなかったから…これからどう出てくるか予想がつかないんだ。三成は…まずいことになるかもしれない」


――その時三成は…


森の中から清正の陣を発見し、息を潜めていた。
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