優しい手①~戦国:石田三成~【完】
旗印は蛇の目。

一番隊となった秀吉軍はさらに小隊に分かれ、上杉連合軍をけん制していた。


そして山野を駆け抜け、ようやく見つけたのは…加藤清正の軍だった。


「清正か…。あまり会いたくはないが、仕方ない」


「清正とは犬猿の仲とか。大丈夫ですか?」


幸村が三本槍を握りしめて身体に力を溜めこむと、旧家ではあるが陣を置くのに等しい建物の中に居るであろう清正を呼び出すために、幸村の傍からそっと離れた。


「見知っている顔が居た。交渉してくる」


重臣とまではいかないが、戦においては常に功績を挙げる名も知らぬ男が見張りをしている姿が見えた。

微動だにしない男の足元に小石を投げるとすぐに鞘から刀を抜いて、こちらに向かってくる。


「何奴…」


「俺だ。石田三成だ」


「!三成殿…!よくご無事で!」


――清正や正則らが、“三成は上杉連合軍側についた裏切り者だ”と罵っている会話を絶えず耳にしていたが、

そんな男ではないことを知っていたこの若武者は、周りを気にしながら草を分け入って三成の前で片膝をついた。


「清正に会いたい。秀吉様の本陣はどこだ?」


「本陣はこの先にあります。拙者は清正殿をお呼びしてきますので、どうかお待ちください」


「すまぬ」


相変らず堅苦しく変わらない三成の態度に安心した若武者の姿はすぐに濃霧に溶け込んだ。


「…話をわかってもらえるといいが」


会えば諍い。

分かり合えたことは今まで1度もなく、短気を出さずに根気よく話をしてわかってもらうしかない。


その時…どかどかと荒々しい足音が響き、鬼の形相の清正がついに姿を現した。


「三成…貴様…!」


「秀吉様に会わせてくれ。お耳に入れなければならぬことがある」


「この裏切り者が、よくもぬけぬけと…」


「貴様と争っている時間がもったいない。…たのむ」


プライドの高い三成が頭を下げて、清正が絶句する。

熊のように大柄な身体はしばらく地面に縫い付けられていたが…


「…内容は敢えて聞かぬが、秀吉様も貴様を案じておられる。しばし待て」


「すまぬ」


建屋から、正則が出てきた。
< 393 / 671 >

この作品をシェア

pagetop