優しい手①~戦国:石田三成~【完】
清正の隣に立ったのは福島正則。

清正を越える粗暴で乱暴者で…酒を飲むと手がつけられない男が…酔っていた。

千鳥足になりながら近付いて来て三成の胸ぐらを掴もうとした時…両者の間に、三本槍の矛先がすっと入って来た。


草を分け入って三成の隣に立った若い男の姿に、清正と正則が首を傾げる。


「貴様は何者だ」


「…お身内同士での諍いは避けて頂きたい」


――瞬時にして幸村から殺気が噴き出て、その背後に鬼神を見たような気がした清正と正則は顔を見合わせて、一歩退いた。


「…こっちだ」


清正と正則が山へ入り、その後をついて行きながら、幸村が少し安心したように肩から力を抜いた。


「油断は禁物だ。今俺はどちらの立場でもなく、清正たちも疑っている。幸村、用心しろ」


「はい」


30分ほど濃霧の中を歩き、そしてようやく視界が開けた。

だがそこは…


「崖…?秀吉様の本陣はどこに…」


すぐ先に正則がいるのはわかるのだが、濃霧で姿が確認できない。


がさっ


「者は少々見回ってきます。何か音が…」


「気を付けろ」


いつの間にか清正の姿が消えていて、

不審には思ったが、この先に本陣があると知って少し安心した三成に、不気味な笑い声が聴こえた。



「くくっ、三成よ…我が軍に裏切り者は要らぬ!」


「な………っ」



ざくっ


何かに斬られたような音がした。


最初は何の音かわからずに、


その後…

自分の胸から血が噴き出ていることに気が付いて、呆然とする。



「裏切り者石田三成よ、殿にお会いすることは叶わぬ。ここで死ね!」



喉から言葉が出てこない。


胸を押さえてよろめいた三成の背後に回り込んだ正則は…



崖から三成を突き落とした。



――三成は落下しながら、ただ一人のことを考えた。



「も、も……っ!」



愛しい女子よ


そなたの元に帰って、祝言を挙げて…


それは、幻となるのだろうか?



「三成殿ぉーーーー!!」



幸村の声が聴こえたのが、最後になった。
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