優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信は極力桃に干渉しない。


“怪我の手当てをする”と言って、三成の手を引いて部屋に連れて行く間も、引き留めようとはしなかった。


「殿…よろしいので?」


「うん。私は彼の記憶が戻ってからの正々堂々とした真っ向勝負がしたいんだよ」


――風が吹き、謙信の長い前髪を揺らして、その秀麗な美貌を隠しては見せてを繰り返して、止んだ。


「兼続はどう思う?三成と私、どっちが勝つと思う?」


「桃姫は殿が毘沙門天から授かった天女。紛うことなき、あなた様だけの姫君であらせられます」


「ふふ、そうだといいね。焦るのは良くないってわかってるんだけどなあ。ちょっと久々に刀でも振ってみようかな。幸村を下に呼んでおいて」


「御意!」


――その頃桃は三成の大きな手を引いて部屋に入り、血が滴っている拳にとりあえず白いハンカチを巻いた。


「結構傷深いよ、早く冷やさないと…」


「堂の中で謙信と何をしていた?」


…率直に切り込んだ。

桃の肩が引きつって、いつもとは違う桃はいつも以上に可憐で弱々しく見えて、その細い肩を揺さぶって顔を上げさせようと懸命になる。


「俺を発狂させる気か?謙信を殺されてもいいのか?!俺に…聴かせるためにしたことなのか!?」


「ちが、違うよ三成さん…っ」


「2度とするな!記憶が戻らずとも俺はそなたを愛しく想っている!あんな方法で俺の記憶を戻そうとしているのなら、即刻やめてくれ!独りでなんとかできる!」


今桃の目の前には冷静な三成は居ない。

激情に任せて想いを吐いて、時々そういった所を見せる三成が懐かしくて…


つい涙が、零れた。


「…桃、姫…」


「ごめんなさい…。そんなつもりじゃなかったの…。謙信さんが…」


「…すまぬ、今のは俺が全面的に悪い。泣かないでくれ、桃姫…」


震える息を吐いて冷静な自分を取り戻そうとして、失敗して…立ち上がった。


「三成さん、怪我が…」


「お園に治療してもらう」


「…お園さんに?どうして?私じゃ駄目なの…?」


「…俺を期待させないでくれ。…せつなくなる」


居なくなる。


三成の方から――
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