優しい手①~戦国:石田三成~【完】
引き留めたいのに、それができない。


…謙信に嫁ぐのだ。

だから、三成の手を引き止めるわけにはいかない。


「あーあ…とうとう…呆れられちゃった…」


乾いた笑みが浮かんで俯いていると、足早に幸村が駆けこんできた。


「三成殿は……姫、どうしたのですか?具合でも…」


「ううん、何でもないよ。それより幸村さん…どうして槍を持ってるの?」


片手に氷水の入った桶、そして片手に愛用の三本槍。


幸村はちょっと浮かれたような笑みを浮かべて桃に頭を下げ、腰を上げた。


「殿と刀を交えます」


「謙信さんと…?私も…私も見に行くっ」


――謙信が刀を抜いている姿は何度かしか見たことがない。


今はとにかく三成のことを忘れたい。

だから、幸村に手を引かれて部屋を出て、庭へと向かった。


――自室に戻った三成は隅に座り、額を押さえ、俯いていた。


…情けない。

歳の離れた桃に暴言まがいの言葉を浴びせて傷つけた。


「俺は…浅い…」


喉から手が出るほど欲しているのに――まだ思い出せなくても、それだけはわかる。

この身体に魂に刻まれている、桃の情報――


「…三成様」


襖の向こう側からお園の声が聴こえて、小さく返事をすると中へ入ってきた。


「…なんだ」


「その手…私にさせてください」


一部始終を見ていたのか、手には氷水の入った桶。

正直手などどうでも良くて、独りになりたくてお園を拒絶した。


「独りになりたい」


「…私の相談は聞いて下さらないのですか?」


そういう約束だったが、今の三成には余裕がなく、逆にお園の存在が鬱陶しかった。


「独りになりたい、と言っている。聴こえなかったのか?」


感情のこもらない低い声――

幾多の女子は三成に好意を寄せてもそんな態度を取られてあっけなく散って行った。


…そんな中、かつては三成に選ばれて、愛された記憶――


自分から去って行ったのに、いざ三成に会ってしまうと…思い出してしまう。


愛された日々を。


「私は…あなた様をお慕いしております」


告白した。
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