優しい手①~戦国:石田三成~【完】
――謙信が三成の部屋を訊ねた時…そこには、お園の姿が在った。

突然現れた謙信に2人共一瞬顔を強張らせたが、謙信が遠慮なく部屋に入って来て腰を下ろしたので、深々とお園が頭を下げて、逃げるように居なくなる。


「もしかしてお邪魔だったのかな?」


「いや、お園が勝手にここに居ただけだ。俺は何も…」


「ふうん、別に興味ないからいいや。これ、一緒にどう?」


飲兵衛の謙信が徳利を揺らし、上品な乳香の香りと…桃の香りが入り混じった香りがして、三成が顔をしかめた。


「…俺を罰しに来たのか?」


「私に罰されるようなことをしたの?大体想像はついてるけど」


「…」


無理矢理盃を三成に持たせて並々と酒を注ぐと、今度は三成に徳利を持たせて盃を手にする。


「君が戻って来てからこうやって飲む機会はなかったね」


「…頂戴する」


2人共ちびちびと飲むタイプではないので豪快に酒を呷って飲むと、濃度の強い酒に胃が沁みた。


しばらく無言が続き、口を開いたのは謙信だった。


「どこまで記憶が戻ってるか教えてもらえないかな。…桃とどうなりたいの?桃が苦しんでるのが全く見えていないようだけど」


「記憶は戻っていない。だが…桃に会う度に胸をかきむしるような思いになる。謙信公…桃を俺に返してくれ」


――三成の熱い瞳と謙信の静かな瞳がぶつかり合った。


まさに、静と動。


上杉謙信と石田三成が腹を割って、互いの想いを吐き合った。


「返してもらう、ね。やっぱり私が奪ったと思っているんだね?」


「桃は俺と夫婦になるつもりだった。貴公がたぶらかさぬ限り、俺の手を離す理由がない」


「そう?それは買い被りすぎじゃないの?じゃあ私が手を引いたら桃は君の元へ戻ると思っているんだね?」


「必ず戻って来る。貴公よりも必ず桃を幸せにする」


――謙信は、静かに瞳を閉じた。

怒っている風でもなく、内なるものと対話しているように見えた。

そうしてまた瞳を開けて、立ち上がる。


「どう出るつもりだ」


「君の言う通りにしてみようか。桃がどう出るか。…あとは桃が決めるべきこと」


桃が、試される。
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