優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信が部屋に戻ると…幸村は桃から遠く離れた位置で背筋を正して座っていた。


「よくお休みになっておられます」


「ご苦労様。もういいよ」


「はっ」


幸村が足早に出て行く。

襖が閉まるまで待って、その後枕元に座ると桃の髪を撫でた。


「ごめんね、試させてもらうよ。君が本当にどう思っているのか…私も知りたいから」


そしてまた腰を上げて自室に戻り、久々に謙信は一人で朝まで眠った。


――だが翌朝。


「謙信さん…」


「……ん…?あれ?桃…」


「どうして一緒に寝てくれなかったの?朝隣に居なかったから…」


気付いたら桃が蒲団に潜り込んでいて、詰るように胸を叩いて来る。

まさかの出来事だったので目を見張ったが…桃がとても寂しそうな表情で抱き着いてきて、謙信の昨晩の決意がもろくも崩れそうになる。


「ふふ、甘えん坊さんだね。ちょっと1人でお堂に籠もりたいから行って来るね」


「え、1人で…?私は行っちゃ駄目なの?」


「うん、ごめんね。君は幸村たちと一緒に朝餉を先に食べてていいよ」


「ううん、待ってる」


笑いかけてきた桃の髪を撫でて起き上がり、頬をかきながら堂へと向かう。


――桃を試して一体どうなるのか。

それは自己満足でしかないのではないだろうか?


…三成は自身を信じて疑っていなかった。


「私だってそう在りたいけどね。身から出た錆ってやつかな」


長い前髪が表情を隠し、毘沙門天の待つお堂へと入ると座禅と印を組み、瞳を閉じる。


心理との対話。
宇宙との対話。

毘沙門天との対話。


集中しているうちにみるみる意識が薄れていって、全てと一体になった気がした。


そうしているうちに数時間が経ってしまい、入り口から声がかかった。


「もうお昼になるよ?身体壊しちゃうからご飯食べてほしいの。私が用意するからお願い、食べて」


親身になってくれる愛しい姫のために腰を上げてお堂から出ると、桃に触れずに笑いかけながら自室へと向かいながら首を鳴らした。


「じゃあ、ありがたく頂くよ。君も食べたら?」


嬉しそうに笑った桃に、笑い返した。
< 472 / 671 >

この作品をシェア

pagetop