優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃が用意した昼餉を綺麗に平らげた謙信の元に、清野がやって来た。


これからどこかへ出かけるという態で桃が首を傾げると、清野は優しく笑みながら深々と頭を下げた。


「では行って参ります。佐助と才蔵は先に発ちましたので取り急ぎ私も出発いたします」


「うん、気を付けてね。朗報を待ってるよ」


「え、出発は今日だったの!?清野さん、気を付けてね!お父さんとお母さんを…よろしくね」


「お任せください。では」


――最後にひたと謙信を見つめた。

ついこの前頬に触れてきた指の感触…未だに忘れていない。


また優しく微笑みかけてもらえるように…優しい言葉をかけてもらえることを願って、清野が退出する。


ようやく謙信と2人になれた桃が隣に移動して袖を引っ張ると申し訳なさそうに小さく笑って、桃の手をそっと外した。


「謙信さん…?」


「ごめんね、今からちょっと用事があるからまた幸村と一緒に居てほしいんだ。いいかな?」


「え…、朝からずっとまともに話してないよ…?」


表情が曇った桃に小さな罪悪感を覚えながらも振り切るようにして立ち上がり、ぽんぽんと頭を叩いた。


「じゃあ行って来るね」


「謙信さ…」


呼び止める声は聴こえていたが、そのまま部屋を出た。

そして途中、幸村と三成に会い、声をかけた。


「桃が部屋に居るから相手してあげてくれる?私はちょっと身体を動かしてくるよ。三成、話があるからついて来て」


――悠然と前を行く謙信の後ろを、少し距離を取りながら三成がついて行く。

…昨晩の話の流れからして、何か策を講じたのだろう。


…これは謙信との恋の戦だ。

桃がどちらの手を選ぶのか…選択させなければならない。


「…何を考えている?」


「私は桃が幸せになる道を進んでもらいたいんだ。私が幸せにできないのなら、君が幸せにすればいい。君が幸せにできないのなら、私が幸せにする」


――謙信しか使わない道場に入るとすぐに戸を閉めて、その前を兼続が固めた。


…謙信が静かに振り返る。


「私は後悔したくない。桃にも後悔させたくない。私の作戦に乗ってもらうよ」


喉が鳴った。
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