優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信が冷たい…。


それは桃をとてつもなく不安にさせていて、幸村と談笑しつつも気になって仕方がなくて、おもむろに腰を上げた。


「私…謙信さんの所に行って来る!」


「いけません。今殿は精神統一と鍛錬を…」


「怒られてもいいの。行って来る!」


元々そっけなくしてくることはあったが…何か無性にいやな予感がして、幸村に何度も諭されても脚は止まらず、道場の前に着いてしまった。


が…戸の前で番をしている兼続の姿もなく、道場の中はもぬけの殻。

しかも…何故か、城内が慌ただしい。


「桃姫…実は…」


――つい数刻前…幸村は謙信に秘密裏に呼び出されていた。

傍らには三成の姿。

…謙信は僧服姿で、三成は…武装していた。


「殿!?」


「この先でうちの軍と徳川軍が小競り合いをしてるらしいんだ。2点から攻めて来てるらしいから、私は平地の方へ。三成は山麓の方に行ってもらうよ」


突然のことで何の準備もしていなかったので狼狽えると、謙信が…ふんわりと微笑んだ。


「これは賭けなんだよ。桃が私の元へ来るか、三成の元へ行くか。これで、決めようと思う」


「殿…。桃姫はあなた様をお選びになったのです。何故今そのようなことを…」


「私だって不安だったんだよ。選ばれてもなお桃が揺れているから、やっぱり白黒つけたくてね。三成もそれでいいよね?」


「ああ」


――最初は三成の手を選び、そして三成が居なくなった後は謙信の手を選んだ桃――


もう帰って来ないと思っていた三成が戻ってきたことで、また元の状態に戻ってしまったこと…


このまま桃と床を共にするわけにはいかない。

この高潔な魂が、それを許さない。


「君は桃の傍にいて。桃が動かないなら、私たちは両方とも選ばれなかったということ。でも桃がどちらかへ行った時…」


三成と謙信が視線を合わせた。


そして腰を上げて、桃に見つからないように城を出て行った。


「どこへ行ったの!?謙信さんと三成さんは…どこに!?」


「…殿は平地へ。三成殿は山麓へ」


「え…一緒じゃないの…!?」


揺れ動く。
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