優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成と謙信は全く逆の方角に散っていた。


だが桃は大人しく城に居ることができずに、檻に入れられた猛獣のように幸村の前を行ったり来たりして必死に考える。


「桃姫…あなた様の、お心の向くままに」


「どうしよう…!謙信さんも三成さんも、大事だよ…」


「…殿は側室を持つことが許されるご身分ですが、女子が2人の男を傍に置く事例は今までありません。どちらか片方しか選べないのです。桃姫、ご決断を」


――三成は不器用だが、優しくて…慈しんでくれて、愛してくれた。


謙信はとにかく優しくて、時に冷たくされたが、時に情熱的で…


どちらかしか選べないのなら…答えは、決まっている。


「私…謙信さんの所に行きます。幸村さん、案内して!」


「!御意!」


桃が謙信の正室に収まれば、ずっと傍に居ることができる。

そんな邪な想いを抱きながらも幸村が桃の手を取り部屋から連れ出した時――


「桃姫、俺たちもお供いたします」


「カッちゃん…トラちゃん…」


部屋の前で待ち伏せしていたのは、武装した景虎と景勝の養子コンビだった。


「あなたの脇は俺たちが固めるので、どうぞ思う存分駆けてくださいませ」


…誰もが優しくしてくれる。


そんな中…今にも泣きだしそうな気持ちを隠しながら、頷いた。


「ここから遠いの?」


「いえ、国境沿いなので馬で駆ければすぐに追いつくでしょう。桃姫…どうしたのですか?目が赤く…」


「ううん、なんでもないの。早く行こ」


謙信と三成――


とても大切にしてくれた2人…


そして、2人のうちのどちらかを選べずに行ったり来たりをして、2人を傷つけてしまっていた自分…


「…ごめんね。私…どっちも…選べない…」


ここに残ると決めたけれど――


やっぱり自分は、ここで生きてはいけない存在なのだ。


狂った歴史が戻らないとわかっていても…元の世界に戻らなければいけない。



「謙信さん…三成さん…。私…やっぱり、帰ります」



愛しい人たち…ごめんなさい。


私…やっぱり、帰ります。


だから早く、私のことは忘れてね――
< 475 / 671 >

この作品をシェア

pagetop