優しい手①~戦国:石田三成~【完】
せめて…せめて、両親と無事に再会するまでは、越後に留まらせてもらおう。

再会したら、一緒に元の時代へと帰るんだ。


――決意とは裏腹に、止めどなく涙が溢れてしまって、前が時々見えなくなりながらも山麓に向けて馬を走らせる桃を守るようにして併走する幸村は…

いつか来る桃との別れを前に、割り切ることができなかった。


「桃姫…それでいいのですか…!?殿のお気持ちは…っ」


「でもどちらかを選ぶなんて無理なんだもん!謙信さんも…三成さんも、大切なんだもん!」


愛しているのに別れなければならない。

どうしてこんなことになってしまったんだろう?

三成と出会わなければよかったのか?

謙信と、出会わなければよかったのか?


「…徳川の軍がまだ多数残っています。桃姫は拙者から離れないで下さい」


「うん…ありがと」


馬の腹に吊り下げていた愛用の槍を抜き、六文銭の印の入った白い鉢巻きを巻いた幸村が何者であるかを知った敵兵が次々と向かってくる。

戦鬼の如く、難なく屠っていき、桃はその間固く目を閉じていた。


その時――


「敗走する兵に手を出すな!尻尾を巻いて自国へと逃げ帰らせろ!」


その声…この時代に来て、最も傍で聞いてきた低い声。


「三成さん!」


「桃姫!?どうしてここへ…!」


桃と認めるや否やクロが主の命を聞いてもいないのにこちらに向かって突進してくる。


この人とも、別れなければいけない。


これからどれだけ一緒に居れるかわからないけれど、せめて…その姿と声を覚えておこう――


――そう思った桃の無防備になった隙をつき…


「きゃあーっ!」


「桃!」


「桃姫!」


山麓側の軍を率いていた隊長が、馬ごと桃に体当たりしてきて、走馬灯のように景色がゆっくり見えて、桃が宙を舞った。


何もできなかった。

ただ…三成が、こちらに向かって身体を投げ出してくるのが見えた。


直後、身体に鈍い衝撃。


「うぅ…っ」


「桃姫!三成殿!!」


目を開けた。


三成が抱きしめてくれていて、

頭からは…血が滴っていた。
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