優しい手①~戦国:石田三成~【完】
大きな石に頭を打ち付けたのか、頭を抱えて苦悶する三成の身体を起こすと必死になって呼びかけた。


「三成さん、大丈夫!?しっかりして!」


どくどくと溢れる血が桃のセーラー服を染め、ぞっとしながら傷口を手で押さえると幸村に助けを求めた。


「幸村さん、どうしよう!」


「これを頭に巻いて下さい!」


戦いの最中、腕に巻いていた赤い布を桃に向かって投げて、また槍を振るう幸村に向かってくる兵の数がどんどん減り、最後には全員が敗走してゆく。


「しっかりして…!」


巻き方が分からずに後頭部を布で強く押さえて、脂汗を浮かべる三成の額をセーラー服のスカーフで拭った。


「三成さん、やだ…、しっかりして…!」


「う、ぅ…」


――うっすらと瞳が開く。


鋭すぎる切れ長の瞳がひたと桃を見据え…瞬かせた。


何かとても大切なものを見ているかのような瞳で見られて、桃の身体が揺らぐ。
 


「三成さ……」


「…桃?」
  


――“桃”と呼ぶその声のやわらかさ。

呼び慣れているかのようなその親しみ。


「三成さん…?」


「俺は正則に斬られてそのあと…記憶がなくなって………、桃…そなたを忘れてしまって…」


腕から起き上がり、自ら布で頭を押さえながら、桃と視線を合わせた。


桃は状況をうまく呑み込むことができずに両手で口元を覆うと、後ずさる。


「三成さん…?三成さんなの…?」


「俺は石田三成。そなたを庭の池で拾って匿った。そなたの親御を求めて越後へ共に来て…そなたと契りを交わした。…全て思い出したぞ。桃」


苦痛に顔を歪めながらも片手で肩を抱いて来て…思いきり抱き寄せられた。


三成が、戻って来た。

不器用でぶっきらぼうで、優しかった三成が…


「記憶が戻ったのですね。めでたきことです」


「幸村…そなたには世話になった。が…今までの記憶もある。桃、本当に謙信に嫁ぐのか?」


――もう、2人と別れると決めていた。


なので、首を振って小さく呟く。


「これで心残りがなくなったよ。よかった…」


「…桃?」


別れなければ。
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