優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃がクロに飛び乗り、三成を誘う。


「とりあえずお城に戻ろうよ」


「ああ。桃…そなたを傷つけてすまなかった。俺は自分が許せぬ」


「仕方ないよ、斬られて崖から落ちて熱が出て…仕方なかったんだよ」


桃が手綱を握り、三成の手が腰に回ってきた。


優しい手…

せっかく戻って来たというのに、離れなければいけないなんて――


「謙信に嫁がぬのなら…俺の元へ戻って来てくれるのか?」


耳元で聴こえる低い声に背筋がぞくぞくしながら…首を振った。


「…その話はお城に戻ってからにしようよ。三成さんってせっかちな所があるよね」


「すまぬ。そなたとの記憶が一気に戻って来て、少し混乱している」


併走する幸村が辺りに気を配りながら、まだ血の止まらない三成の頭の傷を案じた。


「すぐに薬師に診てもらいましょう。とにかく本当に良かった。殿もお喜びになられます」


――桃が俯いた。

そんな態度になるとわかっていながらも責めてしまうのは…桃の決断を受け入れることができないから。


そしてまた三成も記憶が戻ったばかりだったが、桃の僅かな変化に気付いていて、腰を抱いてさらに身体を密着させる。


「三成さ…」


「いいから走らせろ」


それから春日山城に着くまでほとんど走りっぱなしで話す余裕もなく、城へ着いた時は陽が傾いていて、兼続と景虎が出迎えてくれた。


「私に付き合ってくれてありがとう。あのね…謙信さんに会いたいの」


「そ、それは…」


景虎の表情が曇る。

桃が首を傾げると、代弁するかのように兼続が手を貸してやりながら桃を下ろして、頭を下げた。


「殿は城へ戻って以来ずっと毘沙門堂に籠もっておられます。“誰も入れるな”とのことなので…ご遠慮下さい」


「…そうなんだ…。うん、わかった。謙信さんが出てくるの待ってるね」


すまさそうな表情でまた桃に頭を下げて、そして三成の表情に長年友人関係を築いてきた兼続は何かを嗅ぎ取った。


「そなた、どうした?」


「…記憶が戻った。桃のことも全て」


「そ、そうか、それは良かったな!」


「傷の手当しよ」


城内へ入る。
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