優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その頃清野たちはうまく安土城に潜り込み、女中として日々信長の情報をかき集めていた。


…かなり具合が悪い。

常に臥せっていて、時々誰かを怒鳴りつける大声を上げては皆が委縮する。


信長に対する畏敬の念は未だに高く、重臣の森蘭丸が常に傍に居て信長の話し相手を務めていた。


「森様、薬湯にございます」


見目が良く、気の利く清野は安土城に勤め出してからすぐに信長周辺の小間使いに召し抱えられ、それは清野にとってはありがたいことだったが…


「入れ」


中へ入ると信長は起き上がっていて、苦しそうに胸を押さえながらもひたと清野を見据えていた。


「最近よくおぬしを見かける。どこの出身の者だ?」


「出身は尾張国。お傍でお仕え出来で光栄にございます」


深々と頭を下げながら顔を見ないようにして薬湯を手渡すと、腕を引かれて信長の胸に倒れ込んだ。


「蘭、出て行け」


――嫌な予感だ。

蘭丸が何も言わずに退出して2人きりになってしまった清野は、額に冷や汗を浮かべながら身体を起こそうとするが、しっかりと身体に腕が回っていて起き上がれない。


「今宵俺の夜伽の相手をしろ。よもや断るわけではあるまいな」


「お、お許しください…私は今、月のものの期間中でございますので…」


射殺すような視線で信長が清野の顎を取り、上向かせた。


…雄々しい瞳。

自身が病に負けるつもりなど全くないというように強く荒々しく…謙信とは、全く違う。


「そなたは美しいな。儂がこれから可愛がってやる故、月のものが終わったら報告しろ」


「…は、はい…」


やっと離してくれて、顎髭を撫でながら薬湯を一気飲みして不味そうに顔を歪めてはまた床に身を横たえた。


…今なら…今ならこの織田信長の命を狙えるかもしれない…。


そう思って懐に忍ばせている脇差に手を伸ばしかけた時――


「もう出て行け」


襖1枚隔てた向こう側の蘭丸から声をかけられて、仕方なく頭を下げて退出した。


「清野と言ったな。殿の妾に選ばれたこと、誇りに思え。そなたには部屋を与える。来い」


…謙信様…


私が愛しているのは、あなただけ――
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