優しい手①~戦国:石田三成~【完】
蘭丸から通された部屋は信長の私室からかなり近い場所で、まだ正妻も側室もなく、時々気まぐれに女中に手を出して憂さを晴らしていることは知ってはいたのだが…


信長の小姓として身辺の世話だけではなく、身体の関係もある蘭丸の女子のような美貌の瞳がきっと吊って詰め寄ってきたので、思わず気圧されてうろたえていると…


「そなたは妾にしか過ぎぬ。…部屋を与えられたのははじめてだが…自惚れぬよう」


「は、はい…」


すっと部屋を出て行き、広い部屋を与えられてどうしたらいいかわからずに座り込んだ時――


「清野」


「!さ、才蔵?」


天井裏から忍にしか聞こえない程度の小さな声で呼びかけられて、共に安土城に潜り込んだ才蔵と佐助の姿を知らない清野の声もまた小さな声で応える。


「信長と夜伽を。断れば殺されるぞ」


「…でも私は…」


「殿は桃姫以外見向きもせぬ。1度抱かれた位でくノ一が落ちるなどあってはならぬ」


「…謙信様は…喜んで下さるかしら…」


「情報を持ち帰れば何かしらの褒賞はあるだろう。夜伽は断るな」


気配が消えて1人になると、拳を握って決意を固める。


「謙信様…謙信様…私は、あなたのために…」


“お仕置きだ”と言って1度抱かれただけの関係。

しかし謙信は覚悟を決めて春日山城に家康と共に来た時も、そのことを忘れていたかのような態度だった。


…あれから忍としては使い物にならなくなって、毎日泣いて、毎日家康に“辞めたい”と訴えて、ようやく傍に行くことができたのに――


「情報を持ち帰れば…喜んで下さる…」


数日の猶予は貰った。


一体どんなことをされるのかと思ったら身が竦み、ただ一心に謙信だけを想った。


愛妾として召し抱えられれば…地下にも行ける。

そこに桃の両親が居ることもわかっている。


「…私…やるわ。信長を骨抜きにしてみせる…!」


あわよくば、その命も奪う。


――次々と信長からの豪奢な着物や化粧道具などの贈り物が運び込まれる。


できれば、謙信に贈ってもらいたかったものの数々――


「謙信様…」


せつなくて、何度も名を呼んだ。
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