優しい手①~戦国:石田三成~【完】
どれだけ長い時間そうしていたか――だが桃は言わなくてはならなかった。


「この前あげたハンカチ…返してもらっていい?あれをこの時代に置いていけないの。お願い…」


「そなたの痕跡を消すつもりなのか?…駄目だ、あれは俺が墓場まで持って行く。絶対に返さぬぞ」


「墓場とか言わないでよ。長生きしてもらいたいんだからお願い、三成さん」


「駄目だと言っている。第一“返さなくていい”といったのはそなただぞ」


――何度訴えても頑として首を縦には振ろうとせず、顔を上げるとすぐ傍には三成の引き結ばれた唇があった。


…思わず見つめてしまって、ゆっくりと三成の唇が開いて…重なった。


やんわりと押し付けられた唇。
そういった優しいキスはしない男なので驚いて身体に力を入れると、その後は貪るようにして舌を絡めてきて、ゆっくりと押し倒されて、胸を押してそれ以上距離が近付くのを食い止める。


「やだ、駄目!」


「…何もしない。そなたをもっと感じたいだけだ」


覆い被さって来ると、確かに服にも手をかけず、ぎゅうっと抱きしめられて、吐息が漏れた。


「あとどれだけこうして居られるのかな…。三成さんが拾ってくれなかったら私…どうなってたのかな」


「そなたは必ず俺と出会っていた。…謙信よりも早くな」


――謙信に対する対抗意識を見せて笑みを誘われた桃は三成の黒髪を指で梳いて、背中に腕を回した。


「三成さんが優しい人で良かった。良い思い出ができたよ」


「俺を“優しい”と素で言えるのはそなただけだぞ。それに良い思い出とか言うな。…そなたが元の時代に帰ることについて、俺は未だ認めていないからな」


愚直な三成。

今まで嘘をつかれたこともなく、史実通り、曲がったことが大嫌いな男。


歴史上の人物、というだけでなく、本当に出会えてよかったと思う。


「私…行かなくちゃ。お堂に行って来るね」


「謙信に何もされるなよ。あの男、意外に煩悩まみれだからな」


ぽんぽんと背中を叩いて離してもらうと、身なりを整えてお堂へと向かい、そして謙信のすぐ後ろに座った。


気付いているはずなのに、何も言わない。


謙信は、そういう男。
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