優しい手①~戦国:石田三成~【完】
自己の世界から戻って来るまで、話しかけても謙信は答えない。
聞こえていないのかと思いきやちゃんと聞いていて、後で答えてくれたりする。
細くすらりとした後ろ姿は見ているだけで神聖な気分になって、最近お堂で毘沙門天に祈りを捧げることをさぼっていた桃は、難しい印を結ぶと瞳を閉じた。
「どうしたの、煩悩まみれだね」
「え」
瞳を開けるといつの間に身体をこちらに向けていたのか、謙信が膝にくっつく位の近い距離に座っていて、濃紺の長袖の羽織を脱ぐと肩にかけてくれた。
「ここは冷えるから風邪を引かないようにね。体調を崩して戻れなくなったら大変だから」
そう言われて見れば手が冷たくなっている気がして掌を擦り合わせると、謙信が口元に引き寄せて息を吹きかけてくれた。
「もっと簡単に身体が温まる方法があるんだけど」
「え、あの、大丈夫ですっ。そんなんだから三成さんに“煩悩まみれ”って言われちゃうんだよ」
瞳が丸くなる。
直後吹き出して、腹を抱えながら笑った。
「三成がそんなことを言ったの?彼は意外とよく私を見てるんだよね。もしかして私のことを好きなのかなあ、そういうのは困るんだけど」
「もうっ、謙信さんったら!」
――他愛のない会話をして笑い合って、打掛の件を口にした。
「あのね、謙信さんが贈ってくれた打掛…置いて行くね。…ごめんなさい」
「ああ、そうなの?じゃあ後で捨てておくよ。君が要らないのなら手元に残しておいても仕方ないし。兼続に燃やしてもらおう」
「え…、ちょ、ちょっと謙信さん、待って!」
早速腰を上げたので慌てて袖に縋り付いて膝に乗っかると、肩を揺さぶって眉根を絞って抗議した。
「どうして!?そこまでしなくったって…!」
「君のことは忘れないよ。でも思い出に浸りたくはないんだ。それが手元にあると浸ってしまうから、処分しないと」
…本気で言っている。
笑みは浮かべているが、儚い微笑には真実がまだ隠されている。
「…本当にそう思ってるの…?」
「…君は私になんて言ってほしいの?」
…言えない。
“ここに残ってほしい”と言ってほしいなんて――
聞こえていないのかと思いきやちゃんと聞いていて、後で答えてくれたりする。
細くすらりとした後ろ姿は見ているだけで神聖な気分になって、最近お堂で毘沙門天に祈りを捧げることをさぼっていた桃は、難しい印を結ぶと瞳を閉じた。
「どうしたの、煩悩まみれだね」
「え」
瞳を開けるといつの間に身体をこちらに向けていたのか、謙信が膝にくっつく位の近い距離に座っていて、濃紺の長袖の羽織を脱ぐと肩にかけてくれた。
「ここは冷えるから風邪を引かないようにね。体調を崩して戻れなくなったら大変だから」
そう言われて見れば手が冷たくなっている気がして掌を擦り合わせると、謙信が口元に引き寄せて息を吹きかけてくれた。
「もっと簡単に身体が温まる方法があるんだけど」
「え、あの、大丈夫ですっ。そんなんだから三成さんに“煩悩まみれ”って言われちゃうんだよ」
瞳が丸くなる。
直後吹き出して、腹を抱えながら笑った。
「三成がそんなことを言ったの?彼は意外とよく私を見てるんだよね。もしかして私のことを好きなのかなあ、そういうのは困るんだけど」
「もうっ、謙信さんったら!」
――他愛のない会話をして笑い合って、打掛の件を口にした。
「あのね、謙信さんが贈ってくれた打掛…置いて行くね。…ごめんなさい」
「ああ、そうなの?じゃあ後で捨てておくよ。君が要らないのなら手元に残しておいても仕方ないし。兼続に燃やしてもらおう」
「え…、ちょ、ちょっと謙信さん、待って!」
早速腰を上げたので慌てて袖に縋り付いて膝に乗っかると、肩を揺さぶって眉根を絞って抗議した。
「どうして!?そこまでしなくったって…!」
「君のことは忘れないよ。でも思い出に浸りたくはないんだ。それが手元にあると浸ってしまうから、処分しないと」
…本気で言っている。
笑みは浮かべているが、儚い微笑には真実がまだ隠されている。
「…本当にそう思ってるの…?」
「…君は私になんて言ってほしいの?」
…言えない。
“ここに残ってほしい”と言ってほしいなんて――