優しい手①~戦国:石田三成~【完】
信長が片時も手放さなくなってきた。


毎夜信長を褒めそやし、そして時に恥らっては信長を骨抜きにさせた。


「おぬしは何も欲しがらぬが、何か欲しいものはないのか?」


病床にありながらもそんな素振りを一切見せない信長が肩ひじをつきながら傍らに座っている清野の手を握り、愛しみを込めた視線を向ける。


…清野は内心それをほくそ笑みながら、儚い美貌を最大限に利用して悲しげに首を振った。


「いえ、欲しいものは何も。……あ、いえ、何でもございません」


「なんだ、何を言いかけた?欲しいものでもあるのか?」


――蘭丸が突き刺さるような視線を部屋の片隅から向けて来る。

立場を清野に奪われて歯噛みしていて、優越感を感じながらも本分は忘れていなかった。


「私の親御は越後からやって来た流浪人に斬られて死にました。ですので、越後の君主の上杉謙信の首を見たく存じます」


「ほう、謙信めの首か。あ奴には儂も腸が煮えくり返っておった所ぞ。お蘭よ、そろそろ越後へ出向くか」


――だが、秀吉の軍が立ち塞がっている。

のらりくらりと言い訳を続けて参上しない秀吉の意図が読めず、また九州の清正も何者かに殺害され、九州勢を呼び寄せることは適わない。


「毛利元就を呼び寄せろ。秀吉の軍とぶつけて強行突破するぞ。長宗我部元親はどうした?」


「土佐国は秀吉に降伏しており、水軍を率いて海上からの攻撃を防いでおります。殿…謙信が仕掛けて来るのを待つべきでは」


蘭丸の助言を聞いているふりをして、元々人に耳を傾ける男ではない信長は清野の膝に頭を預けながら鼻で笑った。


「あの戦嫌いが攻めてきたりするものか。おぬしは謙信の首が見たいのだろう?ならば儂が取ってきてやる。どうだ?」


「ま、誠にございますか!?」


――お前のような口が大きいだけの小物に謙信様が討たれるはずがない。


内心鼻で笑いつつ、髪を下ろしている信長の髪を指で梳かす。


「帰って来たらおぬしを正室に迎える。異存あるまい?」


「え…?わ、私が…正室…でございますか!?」


「殿!お戯れはそこまでに!」


「うるさい、儂に意見するな!」


…信長は本気だった。
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