優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「あなた…桃が…桃がこの時代へ来ているなんて…本当なのかしら?」


「どうやらそうらしい。どうしてこの時代へ来れたのかわからないが、私たちがあの子のお荷物になるわけにはいかない」


この際いっそ自害を…


――地下牢に長い間閉じこめられている茂とゆかりは、まだ小さかった頃の桃の姿しか知らない。


「桃が危ない目に遭っているなんて耐えられないわ!あなた…覚悟を決めましょう」


牢の見張り番は2人。

屈強な男たちで、長い間牢の見張りを続けており、大人しい茂とゆかりを最近は見ることもなく2人で会話をしている。


「信長様が寵姫をお迎えしたらしいぞ。いずれ正室になるとか。ご病気ではなかったのか?」


「さあな、俺たちはあの方についていれば最強だ。俸禄も沢山もらえるし、女だって…」


――その時何かとても芳しい香りがして、2人の目がとろんとなり、相次いでばたばたと倒れた。


咄嗟に服の袖を鼻にあてて吸い込まなかった茂とゆかりが驚いて立ち上がり、牢の隅に移動すると…


「…桃姫様の親御ですね?」


「!!あ、あなたは?」


「私は清野と申します。上杉謙信公の忍であり、桃姫様のお傍仕えでございます」


目の前に立ったのは、質素に見えるが金糸をふんだんに使用した白い着物を着た優しげな顔立ちの女で、桃という名と謙信の名に、この女が間違いなく使者だと判断した茂が柵に縋り付いた。


「桃は、桃は生きているんですか!?」


「ご健在です。あなた方を心配しておられます。どうぞ桃姫様からのお言葉をお聞きください」


柵の前に清野が立ち、越後を発つ前に桃から預かった言葉を桃の声色で2人に伝えた。


「お父さん、お母さん、必ず助けに行くからそれまで絶対に信長さんに反抗せずに生き延びてね。私が…桃が必ず助けてみせます。一緒に、現代に帰ろうね」


――幼かった娘の声ももう忘れかけていた茂とゆかりは、成長して女らしくなった桃の声色を真似た清野の手を握り、泣き崩れた。


「桃…っ!」


「謙信様が奥州、甲斐と連合軍を組み、信長を討ち果たします。それまではどうかご健在で」


「ありがとう、ありがとう!」


死ぬわけにはいかない。
< 508 / 671 >

この作品をシェア

pagetop