優しい手①~戦国:石田三成~【完】
“信長が戦の準備を始めた”


軒猿からの一報に、上座の謙信がふっと笑った。


「じゃあこっちも始めようか。政宗、軍を動かしてもらっていいかな」


「ああ、すぐに連れて来よう」


それまで大人しく謙信の隣に座っていた桃は…桃の拳は震えていた。


清野がうまくやってくれたおかげで、信長が動き出した。

きっと両親にも、清野に託したメッセージが伝わったはずだ。


…急に両親が恋しくなって…

そして迫りくる別れがつらくて…


すくっと立ち上がると、謙信や三成、政宗らが見上げてきて、無理矢理笑顔を作った。


「私っ、ちょっと走って来ます!」


「桃」


大広間を出て行こうとすると三成から手を握られ、冷たくなっている自分の手に驚いて手を離す。


「じっとしてられないから…軍議、続けてて下さい」


襖を閉めると走り出し、自室に戻ってセーラー服を脱いだ時、ゆっくりとした声が聴こえた。


「桃、入ってもいいかな」


「っ、け、謙信さん…」


これから信長の軍が攻め込んでくるというのに、入って来た謙信の顔には緊張の色は全くなく、脱いだセーラー服で身体を隠している桃の前に立つと、細い肩に手を置いた。


「信長を討つ時、君に傍に居てほしいんだ。そうすれば、すぐにでも元の時代に戻れるかもしれないし。どう?」


「…でも前は絶対駄目って言ったでしょ…?」


「うん、そう思ってたんだけど、ここまで君の親御を連れて来るとは思えないし、清野がうまくやれば信長を討った後越後へ連れてくるかもしれないし。考えておいて」


…想ってくれている。

“元の時代に戻る”と突っぱねて、謙信からは“戻らないで”という言葉を引き出すことができず、思うように行動させてくれる。


器が大きすぎる男だ。

さすがに…歴史に名を残し、21世紀になっても誰もが知っている名の男だ。


「…うん、わかった。私、ついてくよ」


「必ず守ってあげるから心配しないで」


涙が零れてきて、謙信の胸に顔を埋めながら何度も頷いた。


「ありがとう、謙信さん…」


「…うん」


何故こんなにも…優しいのだろう?
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