優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「信長の軍が動き出しました」


翌朝軒猿から報告を受けた謙信は、出陣の準備を始めた。


「今回はこちらが迎え撃つことになる。時間はまだあるから、綿密に計画を立てて迎え撃とう」


雄々しい声が大広間に響き渡り、桃は相変わらず元親からの視線を一身に浴びながら複雑な思いをしていた。


「三成さん…」


「案ずるな。秀吉様の軍は戦うふりをして道を譲り、徳川軍と合流してなだれ込んでくるが、数はこちらの方が多い。余裕で勝てる」


「そうだよ桃。君は身体の心配だけをしていて」


こそっと謙信から耳打ちをされて桃が頷くと、元親が腰を上げて桃に手を差し伸べた。


「桃姫、外の空気を吸いに出ませぬか」


「え…」


「気分を入れ替えに行きましょう」


――謙信と三成を交互に見ると、謙信が幸村に目配せをして、幸村が桃に声をかけた。


「では拙者も共に参ります」


「うん、じゃあ…」


途端良い返事をしたのでちょっと嬉しい気分になった幸村に対し、政宗も対抗意識を燃やして立ち上がろうとしたので、それは謙信が止めた。


「君は軍議の要だから出て行かないように」


「なに?元親とて要だろうが」


「いいのいいの。桃、行っておいで」


謙信からの許可も出て、セーラー服姿の桃が率先して大広間を出ると、元親はその後ろを歩きながらぼそっと呟いた。


「大変美しい太股だ」


「…元親殿」


「願望を口にしてもならぬのか?こうして吐き出さねば俺の頭の中で桃姫は大変なことになるぞ」


――優男のくせに男くさく、口を開けば桃のことばかりの元親はやはり警戒すべき人物だ。


…幸村は桃に想いを明かしたことで、それを隠すことなく元親に警鐘を鳴らし続けた。


「桃姫のことは殿と三成殿に一任されております。元親殿、余計な口は挟んでくださいますな」


「口出しはせぬが…俺は桃姫と普通に話がしたいだけだ。それは阻ませぬぞ」


「さっきからこそこそ話してどうしたの?」


「い、いえ、何も!」


桃が笑いかけてくれて、幸村は天にも昇るような気分で隣に立った。


別れが近くても、最後まで笑顔でいたい。
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