優しい手①~戦国:石田三成~【完】
元親が必要以上に桃に近づかないように警戒している幸村は、庭の池の鯉に餌をやっている桃を見つめながら声をかけた。


「数日後には信長の軍とぶつかります。貴公の兵は大丈夫ですか?」


「うちは水軍だが、陸地でも大差ない動きを見せるとも。そんなに気になるか?」


「貴公は桃姫ばかりにうつつを抜かしているように見えますので」


――何か言い争いをしているように見える幸村と元親に気付いた桃が歩み寄って来て、背の高い2人を見上げた。


「どうしたの?喧嘩?」


「い、いえ、違います。そろそろお部屋にお戻り下さい。秋の冷たい風はお身体に良くないので」


「うん。元親さんは戻らなきゃいけないよね」


「ええ、では戻りましょうか」


歩き出した時桃が小石に躓いて転びそうになり、幸村が慌てて手を伸ばそうとしたが、そんな桃を抱き上げたのは元親だった。


「危ないから俺が運んで差し上げましょう」


「だ、大丈夫ですからっ」


「いえいえ、あなたが怪我をされると俺の責任にもなりますので」


責任問題を出されると断れず、仕方なく大人しく腕に抱かれて大広間を目指す。

その間、元親は時折桃に視線を落とし、目が合うとぼそっと囁いた。


「あなたはかつて俺が恋した女子にとてもよく似ている。本当にそっくりだ」


「え…そうなの?その人とはどうなったの?」


「縁がなく、一緒になることはできませんでした。だからあなたに興味があるのかも」


面と向かってそう言われて桃が照れると、元親は桃を抱え直して顔を近付けると桃の頬に唇で触れた。


「俺も恋の戦に参加しても良いですか?」


「だ、駄目です!私は…帰らなきゃいけないから」


もがいて降ろしてもらうと、足早に去って行った桃を幸村が追いかけた。


「桃姫!」


「だ、大丈夫!こっちの男の人ってどうしてみんな、ああなのかな…」


「お部屋でお休みになられてください」


大広間ではなく桃を自室に連れて行くと、女中に頼んでいた薬湯を桃に手渡した。


「滋養に良いそうです。さあ、これを飲んでお休みになられて下さい」


有無を言わさない幸村に仕方なく従った。
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