優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃が目を覚ますと、傍らには景虎が思い悩んだ表情でこちらを見ていた。


「トラちゃん?どうしたの?」


「…いえ、お迎えにあがりました。参りましょう」


「うん。ねえトラちゃん…悩みでもあるの?大丈夫?」


戦国史上随一の美男子と言われた景虎は桃を心配させないために無理矢理笑顔を作ると大広間の謙信の元へと連れて行った。


「…後でお話いたします。桃姫…俺のことを嫌いにならないで下さい」


「?トラちゃん…?」


中へ入ると面々はもう勢ぞろいしていて、促されるがままに上座の謙信の隣に座ると袖を引っ張った。


「どうしたの?よく眠れた?」


「うん、よく眠れたけど…トラちゃんが…」


「ああ…そういえば話してなかったね。私から説明するよりも景虎本人から聞いた方がいいよ」


「謙信さんは知ってるの?」


「うん。ちょっと前に相談されてね。私は景虎の好きなようにしなさい、と言ったけれど、彼の決断はまだ聞いてないんだ」


長秀が音頭役になり、皆が杯を手にして上昇し続ける士気に高揚した表情を浮かべていた。


「今宵も親睦を深め、織田軍を打ち負かしましょうぞ!」


「おお!」


――そして皆が杯を一気に呷った時…景虎が立ち上がった。


「皆、俺の…いや、私の話を聞いてほしい」


皆が立ち上がった景虎の顔を追うようにして見上げたが、景勝は逆に伏し目がちに俯いた。


全員内容は知らないらしく皆が景虎の次の言葉を待っていた。


「北条家が上杉軍のお味方になるという確約を取り付けました」


「そ、それは誠でございますか!」


さらに家臣たちが腰を浮かせて興奮し、だが謙信は…そんな景虎を諭した。


「景虎…その続きがあるんでしょ?」


「…はい」


唇を噛み締めた景虎は握り拳を作り、顔を上げた時は、笑顔になっていた。



「私は北条家に戻り、相次いで病死した父や兄の意志を継いで北条家の当主になります。父上…今まで私を育てて下さり、ありがとうございました!」



皆が唖然となった。


“景虎”が“北条三郎”に戻る――


桃は景虎に駆け寄った。
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