優しい手①~戦国:石田三成~【完】
景虎は、桃が手作りをした朝餉をとても喜んで食べてくれた。


「桃姫とは短いお付き合いとなりましたが、楽しい時を過ごさせて頂きました」


「私こそもっとトラちゃんと色々お話したかったけど…本当に戻っちゃうんだね」


景虎が箸を置いて大げさなほどに首を振り、桃の隣で微笑んでいる謙信に笑いかけた。


「私がこうして笑っていられるのも桃姫のおかげなのです。これからは相模と越後が同盟関係を結び、父上とこの国を和平に導いてゆけるように邁進いたします」


「うん…頑張ってね。私も元の時代に戻ったら頑張るから」


――まだ生理は訪れていない。

残るか戻るかの確かな決断はまだできていなかったけれど、それでもここから自分が居なくなれば、少しでも史実を元に戻ることができるかもしれない。


…そんな考えを綺麗に隠して白米を口に運ぶ桃の笑顔に皆は癒された。


謙信と、三成以外は。


「うちの国境近くで徳川軍が軍を張っているそうだよ。だけど甲斐と奥州からの軍に圧倒されてそこからこちらへ入ってこれてないし君は焦らずにゆっくり戻っておいで」


「はい」


――桃の奇抜な『セーラー服』という格好…

明るい性格…快活な笑顔…

最初は意固地に否定しようとしていたが桃に癒されて、そして秘めた想いを打ち明けることなく、景虎は越後を発つ。


この歳の近い女子が義母となり、義父と仲睦まじくしている姿を見れるだけで幸せに生きてゆけた。


だが、道は違えた。


自分があの国を継ぐしかないのだ。


「では父上…行って参ります」


「うん、どんな些細なことでもいいから私を頼ってほしい。いいね?」


「はい。景勝、桃姫を頼んだぞ」


「…言われなくとも」


感極まった桃はぎゅっと景虎に抱き着いて、動揺して固まっているその美貌の頬にキスをした。


「今までありがとう。…景虎さん、さよなら」


「…はい。桃姫もどうかお健やかにお過ごしください」


――越後からの護衛と、相模からの使者が合流し、景虎が馬に乗って去って行く。


別れとは、このようにつらいもの。


思い出を抱きながら、生きてゆかなければならない。
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