優しい手①~戦国:石田三成~【完】
今までしっかりと準備を整えていた上杉軍の兵たちは、この戦が謙信の正室となる桃姫のためだということを知っていた。


…実際は桃はもう謙信の正室にはならないのだが、謙信はそれをまた兼続以外の重臣にも明かしておらず、


“織田信長が桃姫を欲している”


兼続が軍にそう触れ回った効果を奏して、士気は盛り上がりに盛り上がっていた。


景虎が発ってから謙信も三成も政宗も元親も長い軍議を続けていて、結果夜になってしまい、最近天守閣に行くのが癖になってしまった桃は団子を頬張りながら、盛大なかがり火が田園に広がる夜景を見ていた。


「誰も死んでほしくないな…」


「君のためなら死ねる、ってみんな思っているはずだよ」


「!謙信さん…三成さん…」


軍議続きでくたくたになっていた2人が桃を真ん中にして両隣に座り、残った団子に同時に手を伸ばした。


「あっ、私の!」


「あ、もう食べちゃった。口移しで返してあげようか?」


「い、いいです…」


疲れると甘いものが食べたくなるのはスポーツをしていた桃もわかるので、黙々と団子を口に運んでいる三成の顔をにこにこしながら見ては謙信にも視線を遣り…


こうして3人で居れることが嬉しくて楽しくて、ある提案をした。


「ね、今日から3人で寝ない?」


「…なに?!」


「ああ、それはいいね。抜け駆けするとすぐにわかるし、じゃあ桃が真ん中だね」


素っ頓狂な声を上げた三成に対して謙信は乗り気で、早速兼続を呼んで三成の布団を運び込む手筈を整えると寝転がって隣を叩いた。


「桃、おいで」


「え…」


「で、三成が向こう側でしょ?間違って私の手を桃と勘違いして握らないようにね」


「だ、誰が貴公の武骨な手など握るか!」


「えー、私の手は意外とごつごつしてないと思うんだけどなあ」


――雰囲気が優しくなった。

ここまで旅をする道中の間は毎日同じ部屋で皆と寝て、それがとても楽しかったので、嬉しくてにこにこしていると、謙信と三成の頬を緩めて、盛大なかがり火を天守閣から見下ろした。


「そろそろ始まるね。桃、君も十分注意するように」


優しい手が両肩に乗った。
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