優しい手①~戦国:石田三成~【完】
朝起きると右も左も好きな男で、しかも…寝顔をばっちり観察されていた。


「ふふ、可愛い寝顔だったよ。よし、これで1日元気に乗り切れるよ」


「俺は外で剣を振って来る」


「謙信さんは今からお堂でしょ?一緒ついてく!で、その後外に走りに行くから三成さんついて来てくれる?」


「わかった」


朝のお堂通いは桃の日課ともなっていて、毘沙門天の像の前に座り、蝋燭の匂いと揺れる炎を見ているだけで心が安らいだ。


座禅を組んで静かに瞳を閉じている謙信は凛として美しく気高く、一緒に印を結んで唱えると、まるでひとつの生き物のように感じる。


いつか謙信と見た花畑――

こうしているとその景色はいつも目前にあり、手を伸ばせば花さえ摘めそうだった。


「も…、桃…、大丈夫?」


「えっ?謙信さん、どうしたの?」


「何度呼びかけても応えないから心配したよ。ふふ、君はすっかり毘沙門天に気に入られちゃったんだね。おかしいなあ、私との絆の方が深いはずなのに」


桃の手を取って立ち上がらせると、弱点の耳たぶに親指で触れられて身を竦めた。


「け、謙信さん?」


「桃…私たちは明日、徳川軍を叩きに国境沿いまで遠征する」


「え…、じゃあ私も一緒に…」


「君は残っていて。織田信長と対峙する時には必ず傍に居てもらうから、今回だけは景勝と一緒にここに居てほしいんだ」


「どうして…?謙信さん、私、三成さんと徳川家康…さんを会わせたくないの。お願い、だから…」


――史実では徳川家康の命によって処刑されることになった三成…

もうこれほど史実が狂ってしまったとしても、変わらないものもきっとあるはず。


「大将の首を獲るのは私の役目だよ。三成には小隊を任せて信長との合流地点を監視してもらうから、会わせないよ」


「!ありがとう謙信さん!」


「私は優しいなあ、恋敵を心配する君の願いを聞いてあげるんだから唇くらい許してもらおうかな」


両肩を抱かれて近付いてくる謙信の優しげな美貌は綺麗で、桃が瞳を閉じるとゆっくり重なり、唇と唇の音が鳴った。


不安は感じなかった。

謙信には毘沙門天がついているから。
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