優しい手①~戦国:石田三成~【完】
結局上せそうになって逃げるように湯殿を後にして、待ってくれていた幸村と一緒に部屋へ戻ってようやく一息つくと、畳に倒れ込んだ。


「も、桃姫!?」


「大丈夫だよ、暑いだけだから」


「では拙者が…」


団扇で扇いでくれて目を閉じていると外から勇ましい掛け声や歓声のようなものが聞こえて、明日の出陣に備えて兵たちの士気が大いに盛り上がっているのを感じた。


恐らくその先頭に立つであろう幸村をじっと見つめると…身じろぎして顔が赤くなった。


「せ、拙者の顔に何か?」


「幸村さんも明日戦うんでしょ?」


「殿をお守りすることが拙者の使命です。ひいてはあなた様をお守りすることにもなります。必ず無事に戻って参ります」


「うん、幸村さんはとっても有名な武将なんだからきっと大丈夫だよね」


膝に触れるとさらに顔が真っ赤になって三成以上に純情なこの男をからかいたくなって起き上がった時、


「桃姫はこちらにおいでか」


苦手としている元親がやって来て、幸村が桃を背に庇うようにして座り直すと中へと招き入れた。


あからさまに警戒している幸村と、あからさまに緊張している桃を見た元親は柔和な笑みを浮かべて幸村を素通りし、桃の隣に座ると手にしていた皿を桃に見せた。


「あ!お饅頭!」


「一緒に食そうと思って持参いたしました」


「うん、一緒食べよ!」


…色気より食い気。

満面の笑みで饅頭を頬張り、緊張も薄れてにこにこ顔の桃に笑いかける元親。


密かにいらいらしていた幸村が元親を睨んでいると、桃が饅頭を幸村の口に押し込んだ。


「も、桃姫?」


「これ幸村さんの分!すっごい甘くて美味しいよ」


桃から食べさせてもらって嬉しさ爆発の幸村が尻尾を振っていると、ようやく湯上りの謙信と三成が戻って来て、元親と幸村に挟まれた桃を見て笑った。


「おやおや、また奪い合いをしなきゃいけないのかな?」


「お饅頭食べてたの。謙信さんたちはまた軍議なんでしょ?明日…だもんね」


本来はこんなに呑気にできないはずなのに、謙信はそれを微塵も見せない。


三成がそっと笑いかけて来て、どっと安心した。
< 550 / 671 >

この作品をシェア

pagetop