優しい手①~戦国:石田三成~【完】
部屋に戻ると父が待ってくれていた。


桃が素直に駆け寄れずに居ると謙信から優しく背中を押されて、笑みを浮かべている父の前に座った。


「あ、あの、お父さん…今日ね、ご馳走なんだって。あ、そうだ!私が作って…」


「駄目だよ、君はゆっくり寝ていて。用意はもうさせているから親御とゆっくり話すといい」


そう言って部屋を出て行こうとしたので、桃は慌てて謙信の着物の袖を引っ張ると引き留めた。


「謙信さん、あの…ありがと」


「ん?うん、私はほとんど何もしてないから」


ぽんと頭の上に乗ってきた大きな手に安心して桃が笑うと部屋から出て行った。


「桃、おいで」


「うんっ」


かすかにしか覚えていない父の前に座ると、瞳を細めて髪を撫でてくれた。


「お母さんによく似てきたね。綺麗になった」


「ほんとっ?あの…お父さん、私…」


今度は父に謝ろうとして言いよどむと、何も言わずに背中を擦ってくれたので顔を上げた。


「謙信公と石田三成から聞いたよ。…大変だったね。だけど桃、大変なのはこれからだ。赤ちゃんができてるかもしれないんだろう?」


思わず腹を撫でてしまった桃は唇を噛み締めて頷いた。


「まだはっきりしてないんだけど…吐き気もするし生理も来ないし…」


「…桃、私たちはあちらに戻れる方法をこれから模索する。お前はここに残るか私たちと一緒に帰るか、ちゃんと決めなさい」


「お父さん…」


――またプレッシャーがかかってしまった桃が両手で口を覆ってうずくまってしまい、部屋の片隅に座っていた幸村が桃を床に寝かせた。


「どうか今は安静に…」


「ごめんなさ…ごほっ!」


茂は先ほどの言葉を少し後悔しながら何も言わずにゆかりと部屋を出て行く。


もっともっと両親を話をしたいのに、それも適わずこうやって床に臥せっている自分が信じられない。


元気で明るいことだけが取り柄なのに。

今の自分には、自慢すべき点が何も無い――


「今宵は酒宴となっております。桃姫、それまでゆっくりなさって下さい」


「うん…。幸村さん、傍に居て…」


「…はい」


手を握った。
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