優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「血判状が…?」


眠っている桃の傍に居ることを唯一認められていた幸村が部屋の隅に座っていると長秀が少しだけ襖を開けて、声を潜めてその事実を告げた。


「だが景虎様がまだ…」


「連名での血判状ではない。殿と尾張の主のみの血判状だ。幸村、急げ」


「ああ」


城内が慌ただしくなったのでだいぶ体調が落ち着いた桃が身体を起こして幸村を呼び寄せた。


「どうしたの?血判状って…この前謙信さんが指を切ってやったやつ?」


「そうです。秀吉公との絆を結ぶためにこの時代ではよく交わされます。その場に立ち会いたいので桃姫はこのままお休みになって下さい」


「駄目だよ私も行かなきゃ!ちょ、ちょっと待ってて、すぐ着替えるから!」


――その時…


遠くの方から、何か空気を振動させるような低い音が響いた。


それは長い間聴こえ続け、そしてみるみる幸村の表情が険しくなった。


「幸村さん?」


「…織田軍が近くまで来ています。あれは戦の前に吹き鳴らす法螺貝の音。急がなければ」


急かしたわけではないのだがそう呟くと、桃が慌ててその場で浴衣を脱ぎ捨て、幸村を仰天させた。


「も、桃姫!?」


「隠してる時間がもったいないからそこに居ていいよ!えっと、口紅くらい塗ってた方がいいよね」


唖然とする幸村の前でセーラー服に着替えた後、鏡台の前に座って口紅だけを指でさっと唇に塗った。


「行こ!三成さんや茶々さんも一緒に居るんだよね?」


「え、ええ、戦に関わる武将は全員…」


先程まで臥せっていたとは思えないほど機敏な動作で大広間に向かい、途中毘沙門堂の前で立ち止まって深々と頭を下げると大広間を目指し、その途中で茶々と一緒に居た三成とかち合った。


…ちょっとだけいやな気分になり、そんな自分にいやになりながらも笑顔を作って何か言い訳をしようとしている感じの三成の背中を押した。


「早く早く!」


「だ、だが体調は…」


「いいのいいの!早く!」


中へ入ると…

そこには互いに正装した謙信と秀吉が。


「桃、こっちにおいで」


絆が交わされる。
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