優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信はやはり真っ白な着物が似合う。

やわらかい笑みを浮かべてはいるがそれは場違いで、実際はぴりぴりした雰囲気が漂っていたのだが、その笑みひとつで上杉の重臣たちを安堵させていた。


“この方についていけば間違いはない”。


皆の表情が雄弁にそう語り、少し誇らしい気分になりながら謙信の隣に正座した。


「畏まらなくていいよ、楽な姿勢で座っていて」


「うん、これが楽なの。秀吉さんっ桃です!お久しぶりですっ」


「おお桃姫!会いたかったぞ、もう尾張には戻って来ぬのか?」


「うん、ごめんねっ」


わざとあっけらかんと笑顔で言うと、秀吉はしばらく口をもごもごさせていたが何も言わずに達筆な字で書かれた血判状に目を落とした。


「儂はもう年寄じゃて、この戦が終われば天下が転がり込んで来るんじゃが、天下を我が手にするつもりはない。桃姫も謙信公を説得してくれい」


「うん、頑張る!」


「こらこら桃、持ち上げないでほしいなあ、私はのんびり暮らしたいんだってば」


「謙信公、話が逸れているぞ」


「逸らしたのは私じゃないのに」


三成の冷静な突っ込みに謙信は唇を尖らせながら小刀を手に取った。


研ぎ澄まされた刃の光が謙信の顔を照らし、瞳を細める様は本当に美しく、桃は謙信の隣でその横顔に見惚れながら張りつめる空気に緊張してもぞもぞと身体を動かした。


「み、三成さん…」


「居心地が悪いなら下りて来い」


謙信を隣からではなく正面から見たい――

そう思っていたので上座から降りると秀吉の隣に座っていた三成の隣に移動し、手を握った。


「これより尾張の我が軍と越後は同盟国となる。儂が没した後は貴公に尾張を託す」


「先の話はまた後日。共に暴君織田信長公に鉄槌の刃を」


2人が同時に小刀で親指を斬り、同時に血に濡れた親指で血判状に押印した。


あの強国尾張と同盟国に――

ますます安泰の一途を辿る謙信の歩みに重臣たちは感極まり、あたりからは鼻を啜る音があちこちから聴こえる。


「謙信さんって…すごいね…」


「ああ。だが俺もいつか…」


いつか――
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