優しい手①~戦国:石田三成~【完】
血判状に押印を終えて重臣たちが解散すると、謙信はあっという間にひざ掛けにだらりともたれ掛ってだらだらし始めた。


「大体仰々しいんだよね。私はああいうの苦手だなあ」


「謙信公、先程の法螺貝の音を聴いたか?織田軍はすぐそこまで来ているんだぞ」


「もちろん知ってるよ。でもいつも身構えていられないでしょ、私はそういうの苦手なんだよね」


…謙信がこうしていつも通りだらだらやっているからこそ重臣たちは落ち着いていられる。

城からそんなに遠くない場所で織田軍が陣を張っている情報もすでに入ってきているので、一応布陣は張っているが謙信はまだ出陣する気ではないらしい。


「謙信さん…」


「桃、そんなに心配そうな顔をしてどうしたの?あ、もしかして私が敗けるとでも思っているのかな?」


「そ、そんなことないよっ。ね、三成さんも居るし幸村さんだって政宗さんだって元親さんだって居るしっ」


「つまらぬ。つまらぬぞ!のらくらせず出陣の支度をせぬか!」


それまで腕を組んでずっと黙っていた政宗が大声を張り上げ、血の気の多い若武者は今にも織田軍に突っ込んで行きそうな勢いで謙信を詰った。


「まあまあ落ち着いて。桃の親御も奪還したし、後はあちらの頭を取るだけなんだから」


「だからそれを早くやれと言っている!…もしや貴公、勝負を先延ばしにして桃の脚止めをと思っているのではあるまいな」


――その場がしんと静まり返った。

重臣は去り、最も近しい者しかその場には残っていなかったが…


三成と手を握っていた桃の手はかじかんだように震え、三成は桃を抱き上げると皆を見下ろした。


「桃を休ませてくる。…貴公らは桃の気持ちをまるで考えておらぬ」


「三成さん…」


颯爽と大広間から出て居なくなると、謙信が息をついた。


「政宗」


「俺が悪いのはわかっている!…後で謝って来る」


「…君の言葉には一理あるよ。私はやっぱり桃を帰したくないんだ」


「…殿…」


幸村は慰めの言葉をかけようと思ったが言葉が出てこずに歯を食いしばった。


「明日出陣しよう。決着をつけて…後は桃が帰れる方法を皆で模索しよう」


遂に――
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