優しい手①~戦国:石田三成~【完】
それから絵が描かれた紙を手に部屋に引きこもってしまった桃を心配した幸村が謙信の前に座していた。


「殿…いささか性急すぎたのでは…」


「あの石田三成が強敵だからね、本腰入れていかないと」


「そうだぞ幸村!桃姫は我が越後の母となるお方!殿がようやく奥方をお迎えになる気になったのだ、茶々を入れるでない!」


兼続はとにかく喜び、謙信はぼんやりとまた縁側で横になっていた。


納得のいかない幸村は桃のために必死で謙信の勢いを削る言葉を探していたのだが…


「幸村…君も私の敵なんだね?」


愚直で真っ直ぐすぎる幸村はそれを否定できず、大きく身体を揺らした。


「せ、拙者は…っ」


「私には時間がないんだ。越後を離れている間に攻められてはたまらないからね」


「…武田…信玄公…ですか」


――越後の龍と、甲斐の虎。


相容れない両者は度々戦を交え、拮抗しては勝負のつかない日々が続いていた。


…謙信は幸村の顔色を盗み見ながら身体を起こして頬をかいた。


「…信玄が…そろそろ死ぬよ」


「…!」


――甲斐に幸村ありと言われた槍の名手は、今は越後に仕える身。


それもこれも…


「私たちは休戦した。全力ではない虎に挑んでも面白くないし、それに…信玄から君を託されたからね」


死期を悟った信玄が、戦の最中に男として認め合った末、未来ある幸村を託した。


「そこには義があった。だから私は真田一族を庇護し、守ることにしたのだよ」


「…お館様が……」


それっきり絶句してしまった幸村を兼続に任せ、謙信は立ち上がった。


「だから越後には早く帰らなければね。…姫を連れて」


「殿…殿はどこまで本気なのですか?桃姫はこの時代の者ではないと先程…」


「全力で本気だけど…姫より三成をどうするかが鍵かな。兼続、攻略頼んだよ」


そして謙信はそのまま桃の部屋へと脚を進める。


可愛らしい姫――


毘沙門天が遣わした天女であり、世に未練のない自分に炎を燈した女。


「私に愛されれば…本気なのかすぐにわかるんだろうけどね」


いつになく本気だった。
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