契約恋愛~思い出に溺れて~
「はぁ、はぁ、……もう」
「ごめんなさいね。寝てた?」
私は、乱れてしまった髪を手で梳きながら、綾乃ちゃんと二人、居間の方へ向かった。
ここからはタクシーを頼まないと帰れない。
私は彼女にそう告げ、電話を借りてタクシーを呼ぶ手はずを整える。
電話をかけながら、綾乃ちゃんをそっと盗み見る。
彼女はお湯を沸かし、私の為にお茶を入れてくれていた。
肩まで伸びたサラサラの髪、少しおどおどした表情。
どことなく庇護欲をかきたてられる女の子だ。
私は電話を終え、彼女に向かって話しかける。
「ごめんね。びっくりしたでしょう」
「いえ、兄がすいません」
「色々、ショックだったみたいよ」
私が笑うと、彼女は少し変な顔をした。
悔しいような泣きだしたいような。
紗優も時々こんな顔をする。
言いたいことを言えないときなんかに。