契約恋愛~思い出に溺れて~
「……紗彩ちゃん!」
呼びとめられて振り向くと、英治くんがいた。
「英治くん」
少し息を荒くした彼のその姿に、いちいち心臓がうるさい。
その理由を考えたくないから、私は彼から視線をそらす。
「大丈夫?」
「何が?」
「一応失恋でしょ」
「……そんないいものじゃない」
自然に苦笑がこぼれ出る。
そう。
そんないいものじゃない。
人から見れば人格を疑われるような逃げ場所を手に入れて、それを失っただけの話だ。
私が傷つく資格なんてない。